特許コラム
2011年11月22日 火曜日
素材メーカーと顧客の特許
素材系の会社が特許に関して困っていることというのは何か、というと
「素材提供をしたら、顧客がその素材の用途について勝手に特許を出してしまうこと」
です。
また、そうならないように、と自社で特許出願をすると、「その発明はウチと共同で開発したものだから、共同特許にしてくれ」と言われたりもします。
このあたり、素材系の会社からすれば非常に困った問題です。
新規な素材がキーとなる新技術が開発される場合、「素材を作っている会社」と「その素材を使う会社」とが共同で開発するのが通常です。「素材を作っている会社」だけでは、「その素材の評価」をすることができません。また、「素材を使う会社」は、「素材開発」をする技術力は持っていません。
でも、その「技術」が完成したときに、「素材を作っている会社」と「素材を使う会社」との利益は一致しません。「素材を作っている会社」は、その素材を多くの会社に販売して、売り上げを増大させたいでしょう。でも、「素材を使う会社」は素材を自分たちで独占して、市場を独占したい、と考えるでしょう。
そんな風に、利害が一致しなくなったときに、特許の問題がでてきます。
でも、そこが問題になると、たいていの場合は「川上の会社」が損をすることになってしまいます。ここのところ、会社同士の強弱関係もありますし、それとは別に特許法の規定の問題もあります。
現在の私は「素材を作っている会社」と仕事をする機会が増えているので、色々と考えさせられます。色々な会社の方と話をすると、どこの会社の方もおっしゃることは同じで、「顧客に勝手に特許を出されるのが一番困る」ということです。
私も、「素材メーカーの特許に関しては、顧客が最大の敵になる」ということを申し上げることは多いです。
もちろん、顧客と製造元との関係で顧客有利になり勝ちなのは、「お客様は神様です」という考えのある日本では止むを得ないことなのかもしれません。しかし、それが本当にいいことなのかな? と思うことは多いです。
また、このような状況であるから、原料メーカーと顧客が親密な関係を作りにくい、ということにもなるのかもしれません。だから、技術が色々な会社にばらばらに存在することになって、全体を知る人はいなくなる、という。
ま、それゆえに全体として日本の技術力が高くなっている面は否定できないので、このあたりの構造は難しいところなのですが。
気が向けば(根性があれば、というほうが正確かもしれません)、この辺のネタもまた突っ込んでいきたいと思います。
投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL
2011年11月20日 日曜日
特許法改正のこと
先週、特許法改正の説明会に行きました。弁理士はこの研修が義務なので、義務を果たすべく受講しました。
しかし、今回の改正に関しては色々と考えさせられました。
今回ほど「変な改正だなぁ」と思わされたのは、初めてです。いや、これまでの改正のときは私も知財経験が今よりも短かったわけで、ベテランの方は「変な改正」と感じていたことが多かったのかもしれませんが。
まず、1点目、これはほんとうに発明者の方々には注意事項となりますが、「新規性喪失の例外」について、「特許を受ける者の行為に起因して」新規性を喪失した発明については、新規性喪失の例外適用の対象になる、という改正がありました。
これを見ると、「じゃあ、プレス発表やらサンプル提供の前にあわてて出願しなくてもよくなったのか」と思うかもしれません。
しかし、出願時に「新規性喪失の例外適用のための証明書」の提出が必須である、という点は改正されていません。だから、その手続きをしなければ、結局、自分が行った「プレス発表やサンプル提供」で拒絶されてしまう、という状況は変わっていません。
まあ、「だったら、新規性喪失の例外適用のための証明書」を提出すればいいだけのこと、ということではあるのですが、しかし、この「証明書」ってのは、提出した後、どこかで誰かの役に立つものなのでしょうか。
実際にこのような適用を容易にしたいなら、新規性の基準を変えたらいいのに、と思わないでもないです。つまり、出願人自身が公知にした文献は新規性の基準の文献にならない、とすればいいんじゃないか、と。
審査実務としても、出願人が発表した学術誌やパンフレットのたぐいを、審査官が「先行文献」として引用しなくてすむだけのことですし、釈明が必要なら、意見書提出時に釈明させればいいでしょう。なぜ出願時に「証明書類」の提出を必須にするのでしょうか。その手続きが必要となっているせいで、結局、「新規性喪失の例外はできるだけ使わないように」という状況に変化はありません。
私も、この点については改正後も「出願するまでは絶対に秘密を維持してください」ということを顧客には言い続けると思います。だったら、この改正が世の中に対して与える意義は薄いと思います。それなら、何のための法改正なのでしょうか。
それから、もっと「あれ?」と思ったのは、訂正審判に関する手続の改正です。一言で言うなら、「こんなにレアなケースのために、こんなに複雑な規定にする必要はあるのか?」ということです。運用でうまいことやってくれればいいのに……というのが感想です。まあ、弁理士であってさえ、めったに関わることのない条文なので、実際に手続きをやるときは調べて進めないといけないな、ということですが。
これまで新聞記事で今回の改正法について読んでいたときは、ここまで「あれあれ?」という気持ちにはなっていなかっただけに、ちょっと残念です。
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2011年11月 7日 月曜日
思いがけず
11月3日の朝に伯父が亡くなり、お通夜と葬式でばたばたしていました。
この年にもなると、身内の葬式というものも何度も経験していますが、それでも物寂しいことに変わりはなくて、ちょっとしみじみしてしまいました。
仕事に関しては、中堅どころといいますか、少なくとも「若手」とは言えない年齢になった私も、こういう場所ではまだまだ「若輩者」の下っ端という感じです。
で、下っ端らしく、亡くなった日の夜と、お通夜の夜に線香番などもやっていました。
それはさすがに一人でやることではないので、従兄弟同士3人でやっていました。とはいえ、最初の日は3人のうち故人の息子は何かと大変だろうから寝ておいて下さい、となって、故人の甥にあたる私ともう一人とでかなり長い間、線香番をしていました。
一緒に線香番をした従兄弟というのは、私より十一歳年下の男で、実際のところちゃんと膝をつき合わせて話をしたことがこれまで一度もありませんでした。
これだけ年が離れていると、私が大学生の頃に彼は小学生です。私が就職すると親戚の集まりに顔を出す機会も激減するので、顔を合わせることさえなくなってきました。だから、正直、「たまにしか会わないでいると、いつの間にか大人になっていた」という印象です。
彼のほうが大人になってからは、結婚式、葬儀、法事のような行事でしか顔を合わせないので、落ち着いてゆっくり話をすることもほぼありませんでした。年の近い従兄弟なら、もっと色々交流があったのかもしれませんが、これだけ年が違うとそうもいかない、というのは普通のことなのでしょう。
でも、さすがに線香番を一緒にやるとなると、5,6時間という長時間にわたって枕元で一緒にいるわけです。そこで、随分色々な話をしました。
昔の思い出話、「あのとき実は何を考えていた」というような暴露話、今の仕事の話、プライベートの話と。
それがなんだかとても楽しかったです。やはり、この年になると、11歳の年齢差というのは随分小さなことになってしまうんですね。今までそれほど親しく交流していたわけではないとはいえ、知り合ったのは彼が産まれた直後とも言えるので、長い付き合いです。親戚に関しては共通の知人も多くなります。
それに、なんだかんだ言っても、親戚なので「その場では何を言ってもいい」というような気分にもなりやすいです。
お互いに話は尽きず、異様な盛り上がりをして、思ってもいなかったような楽しい時間をすごすことができました。
葬式は、もちろん「楽しい」ことではないのですが、そのなかで少しでも「楽しい時間」を過ごせたというのは、いいことだったと思うし、もしかしたらこういうチャンスを作るために「線香番」という習慣があるのかもしれない、とさえ思いました。
そして、こういう風に世代の差も忘れて盛り上がれたというのも、お互い大人になったんだな、と思い、しみじみしました。
そして、こういう風に世代の差も忘れて盛り上がれたというのも、お互い大人になったんだな、と思い、しみじみしました。
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2011年10月29日 土曜日
外国代理人
特許事務所の秋は、外国の代理人がたくさん訪れる季節です。やはり、日本に来るのは秋が一番いい、ということなのでしょうか。例年、外国の弁理士は、10月から11月頃に日本にやってきます。
うちのような小規模の特許事務所でも、毎年、何人かの外国弁理士にお越しいただきます。まして、以前勤めていた大規模な特許事務所では、かなり多くの数の訪問がありました。また、サラリーマン時代であると、特許部にも結構な数の外国代理人が来られました。
海外の代理人の方というのは、仕事で付き合いはありますが、普段はレターやメールの文章で名前しか見ていないですし、電話で話すこともほぼありません。ですから、こういう機会でもなければ、顔も声も知らないという状況になりがちです。
で、たまにこうやってお会いしてはじめて、「あ、こんな人なんだ」と思うわけです。
やはり、こういうことは重要だなと思います。普段の仕事では、委任状がどうとか、各国の審査実務が、とか手続きに関する硬い話ばかりをしている相手です。でも、現実に会って話をしてみると、外国人とはいえ、一番根っこのところは同じ人間だなぁとも思います。
食事に行って酒が入ったりすると、こういう機会でもないとできない話ができたりもするので、刺激を受ける面も多いです。
弁理士にとって、いい仕事をするためには「いい形」で各国代理人と付き合うということも仕事のうちの一部なんだろうな、とも思います。やはり、どうしても現地代理人には無理をお願いすることもあるし、逆にいい加減なことをされて文句を言わなければならないときもあります。
人間、誰だって「嫌な人」に無理を言われると腹が立つけれど、「仲のいい人」に無理を言われても別に腹が立たない、ということはあると思います。
一度でも一緒に食事に行って世間話をした人だと、やはり少しはお互いのことが分かったような気がするので、ちょっとした頼みごとをしやすかったり、無理を言えそうな気がしたりもします。
いい仕事をするために腹を割りたいなら、こうやって顔を合わせる機会は重要かもしれないですね。特に事務所経営者ともなれば尚更です。
というわけで、これからの季節、外国代理人訪問への対応もがんばらなければ、と思います。
本当は各国へ行って現地事務所を訪問するということも重要な用事になるのですが、こちらは弁理士一人の事務所だと難しいですね。なかなか一週間も事務所を空にはできないですし。とはいえ、また機会があれば、そうやって外国代理人との関係を密にしていく努力もしなければ、と思います。
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2011年10月26日 水曜日
最近の読書あれこれ
最近、久々に小説をたくさん読んでいます。こんなにたくさん小説を読む日々は久しぶりです。「読書がほんとうに楽しい」と感じるのも久々です。
最近読んだ本のタイトルを並べてみると。
「武士道シックスティーン」「武士道セブンティーン」(以上、誉田哲也、文春文庫)「夜は短し歩けよ乙女」(森見登見彦 角川文庫)「警視庁特捜班ドットジェイピー」(我孫子武丸 光文社文庫)「陽気なギャングが地球を回す」(伊坂幸太郎 祥伝社文庫)「告白」(湊かなえ 双葉文庫)などなど。
どれも面白かったです。というか、読んだなかで「面白くなかった」と思ったものは、ここにタイトルを挙げなかったわけですが。でもまあ、定評のある実力作家の本ばかり読んでいたわけで、「安全な読書」をしている、とも言えます。
実際、私がここで個々の作品の感想を書くまでもなく、きっとネットのあちこちで感想文が見つかるんじゃないか、というような作品ばかりでしょう。
こうやって、最近、読んで楽しかった本のタイトルを並べてみると、「告白」以外は明るい小説ばかりですね。日々特許事務所業務に追われて疲れているので、ほんわかした小説を読むのが楽しい、ということでしょう。
昔、大学時代、大阪大学推理小説研究会に属していた頃の、マニアックな読書からは程遠い、大変健全な読書って感じです。大学時代、P.D.ジェイムズの「罪なき血」(ハヤカワ文庫)をサークルの読書会の課題図書に選んで顰蹙を買った頃からすれば、何と穏当な読書でしょうか。
最近、ブログをさぼってろくに更新もせずに、こうやって読書をしていたということになるわけです。
とはいえ、最近は日々の仕事の中で疲れることも多かったので、こういう息抜きもしないとやっていられない、という面もあります。やはり、仕事ばかりで人は生きていけないですね。
「だからどうした」と言われれば、返す言葉もないどうでもいい更新ですが、あまり更新しないでほうっておくのもアレなので、書いてみました。気まぐれ更新なので、これからはこういうどうでもいい更新がしばらく続くかもしれませんが、ご了承を。
投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL