特許コラム

2010年6月22日 火曜日

最近読んだ本

 先日、「御社の特許戦略がダメな理由」(長谷川暁司著、中経出版)を読みました。
 非常にいい本でした。著者は元三菱化学の知財部の理事、知的財産部部長という方ですから、化学部門の企業知財の経験としては日本でもトップクラスのキャリアをお持ちの方です。
 内容はそのようなキャリアをお持ちの方でなければ書けないだろうな、という示唆に富むものであり、色々と考えさせられました。

 具体的には企業の知財戦略のあり方についての本であり、挙げられた事例は(当然のことながら)化学特許に関することが多いので、化学以外の分野の方が読まれてどのように思われるかは私にはわかりません。
 しかし、少なくとも化学系の特許を仕事とされている方、化学系の企業(特に技術開発に強みを持つ会社)で経営に携わっておられる方であるなら、必読の書ではないかと思います。また、化学以外の企業の方でも読んで損はないのではないでしょうか。

「知的財産部門だけで特許戦略を立ててはいけない」
「特許戦略は経営者の仕事である」
「『戦わずして競合企業に勝つ』ために」
といった目次に書かれたタイトルを読むだけでも、特許戦略について重要なキーワードが並んでいると思います。

 とにかく、日本の企業は「戦略」に弱い、と思います。しかし、知財によって会社に利益をもたらすためには漫然と特許を出願するのではなく、「戦略」を持つことが必須になります。この本は、会社の「戦略」をどうやって構築するか、ということが書かれた本であり、これから会社の「知財戦略」を考える上では大きな参考になることでしょう。
 ここで具体的な内容について触れるよりも、実際に読んで戴くほうが早いので、具体的な内容について細かに触れることはしません。興味を持たれた方は是非、ご一読下さい。

 と書きましたが、ではこの本で具体的に書かれたようなことをすべての会社がこの通りの形で実施すべきか、と言えばそれは違う、とも感じています。
 知財戦略はは会社ごと、業界ごと、研究テーマごとに少しずつやり方を変えて、ベストのやり方を追求すべきことです。すべての会社にとってベストのやり方は存在するはずがありません。
 ですから、この本に書かれた精神を無視して、形式だけを真似してもうまくいかないでしょう。それよりも、著者が書かれている本質的な精神を理解して、「それでは自分の会社はどうするのがベストなのだろうか」と悩むことも重要ではないかな、と思います。

 更に、自分自身のこととしては、特許事務所の弁理士はこのような姿勢のなかで果たせることがあるのだろうか、との悩みも感じました。特許事務所の弁理士は、このような「知財戦略」に絡むことは少なく、ただ言われたことをやるだけ、という仕事であるケースが非常に多いと思います。
 本当にそれでいいのだろうか、と私はいつも思っています。そのあたりの話は、また別の機会に。

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

2010年6月16日 水曜日

よい弁理士とは?

 「弁理士を探す」の項目を書いた際に、「どんな弁理士がよい弁理士なのか」が分からないと、弁理士を探すこともうまくいかない、と書きました。
 では「よい弁理士とはどんな弁理士なのか?」と皆さん思われることでしょう。
 そこで、「よい弁理士とは?」ということについて、書かせて戴くのですが……。
 このブログでこれを書くのは自分の首を絞めないか、というおそれも感じています。ここであまり立派な条件を書きすぎると、それを書いている本人がその条件をまったく満たしていない、という悲しい状態になってしまう危惧も感じています。
 が、それを言ってしまうと、「よい弁理士とは」ということについて、弁理士は議論できないことになってしまうので、今回は自分のことは棚に上げて、「よい弁理士とは」ということについて書かせて戴きます。よって、「お前はどうなんだ」というツッコミはなしでお願いします。
 
 前置きはこれくらいにして、弁理士というのはほとんどの人が弁理士試験に合格して弁理士登録された方です。そして、その「弁理士試験」で試験されることは、法律科目となります。
 しかしながら、弁理士の能力として必要なことは法律知識だけなのか、というとそうではありません。
 日本語能力、技術知識、コミュニケーション能力、論理的思考能力、管理能力、交渉力等、色々と必要とされることがあります。こういった能力をまんべんなく持っていることが必要であり、どこかの能力が極端に低いと、他の能力がいくら高くても弁理士としてはどこか欠如している、ということになってしまいます。
これらのすべてについて、短期間で見極めることはできないと思いますから、まずは、特に重要な要素を説明しましょう。

 それらのなかで、一番重要なのは、結局、コミュニケーション能力ということになるように思います。
 結局、どこのどんな仕事でも一番重要だ、と言われてしまうコミュニケーション能力ですが、弁理士の世界でも最後はここに行きついてしまうように思います。
 「顧客が何を望んでいるかを深いところまで理解して、顧客の希望どおりの仕事をする」ということが代理人の仕事の基本です。それができるかどうかは、特許法の知識とは別の話です。
 更に、分かりやすい日本語で書面をまとめ上げる能力、というのは日本語能力であると同時にコミュニケーション能力でもあると思います。コミュニケーション能力が高い人は、日本語能力も高い場合が多いと思います。
 ここでいうコミュニケーション能力とは初対面の人とスムーズに話ができるとか、場を明るく盛り上げるとかではないと思います。もっと単純に、仕事に際して会話のキャッチボールがきちんとできるということだと思います。実際、有能な弁理士の方には、普段は朴訥とした口下手な印象なのに、仕事の話になると一を聞いて十を知る、といった具合にこちらの意図をすぐに理解して効率よく進めて下さる方も多いです。
 この人はコミュニケーション能力が高いだろうか? ということを判断するのは、特許の世界に限らず、どんな仕事をしていても必要になることです。ですから、「特許云々」ということではなく、純粋に「その人」の人柄を見る、という判断になると思います。そのことについてはあちこちで語られていることですから、今ここで私が長々と書くことでもないでしょう。

 それから、技術知識は重要になります。現在、科学技術の分野は幾つかの分野に大別されると思います。そんな中、すべての技術分野において技術知識を備えることは、一人の弁理士にできることではありません。ですから、
「依頼しようと思っている案件の技術分野に詳しいかどうか」
という意味で、弁理士が持っている技術知識を量ることが大切です。仕事を頼む前に、その技術分野について少し雑談をしてみると、技術者の方であればすぐに相手の力が推し量れるでしょう。
 あまり高い水準を求めすぎると、お眼鏡にかなう弁理士は見つからなくなってしまいますが、かといってあまり何も知らない人と仕事をすると、本題に入る前に技術分野の概要説明だけで時間がかかってしまいます。また、同じ弁理士と長く付き合うと、徐々に技術知識が増えていくので、次第に説明が楽になっていきます。その意味では、あまりしょっちゅう弁理士を変えるのは良いことではないと思います。また、付き合い始めた最初のうちは、少々の我慢が必要かもしれません。
反面、随分長く一緒に仕事をしているのに、いつまでたっても技術内容の理解が全く深まらない弁理士がいれば、その人は少し問題がある弁理士ではないかとみるべきでしょう。

 その他の重要な能力として「論理的思考能力」というものがあります。
 ここのところは、難しい問題でもあるので、回を改めてまた書かせて戴きます。

 

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

2010年6月14日 月曜日

化学特許④

 化学特許の特徴のひとつとして分析の問題があることは、「化学特許③」のなかで書かせて戴きました。
 今回は、化学特許について特に企業経営にメリットを生む可能性が高い特許について書かせて戴きます。それは、「化合物特許」です。更に申し上げるなら、
「分析が簡単にできるような化合物の化合物特許が取れると、非常にメリットが大きい場合がある」
ということです。
 いい技術について化合物特許が取得できれば、特許が切れるまでの期間、企業経営を潤してくれる場合があります。

 化学の特許において、色々なことがうまくいかなかったり、難しくなったりする理由として、「侵害を突き止めるのが難しい」ということがあります。このことは、「化学特許③」のなかで書かせて戴きました。しかし、反対に「侵害を突き止めることが容易」になるような特許を化学の分野で取得できてしまうと、その場合は非常に強い武器になる可能性を秘めています。

 いくら他社の工場のなかを見られないとしても、営業パンフレットまでも同業他社に見せないようにすることは不可能でしょう。営業パンフレットにどのような化合物であるか、一切書けないということになれば営業上かなり苦しいことになってしまいます。
 また、顧客企業が露骨な特許侵害の危険を冒してまで侵害品を使うか、というと、なかなかそうはなりません。普通の会社であれば、まず「侵害品は使わない」という姿勢になるでしょう。化学の分野ですと、ほとんどが顧客は一般消費者ではなく会社になりますから、侵害品を使うことへの抵抗は非常に強いです。

 さらには、「化合物」で特許が取れているわけですから、最初に開発したときと別の用途に使用できることが後で明らかになった場合でも、最初の特許で幅広く守れる可能性があります。例えば、最初、医薬品として販売していた化合物が、後でプラスチック添加材としても使用できる、ということが分かった時も、化合物特許で守れる可能性が出てきます。
 そして、化合物特許の場合は、「同等の物性をもつ製品を他の化合物で得ることがどうしてもできない」というケースもよくあります。そういったケースであれば、特許を回避した別の競合品を市場に出すことが困難になります。

 実際、私もこれまでの経験のなかで、非常に企業経営に役立っている特許だ、と感じた件は、化合物特許であることが多かったように思います。大抵の企業は、強い化合物特許が成立していると、その特許については戦うよりも特許が切れるのを待つ、という姿勢になっているように思います。

 このような化合物特許ではありますが、「強い化合物特許」が取れるときというのは、研究成果としての技術に特徴があって、誰がみても「いい技術だ」と感じるようなものであることが多いようにも思います。このような「いい技術」は、きっと多くの人の努力と苦労の上に成り立っているのだと思います。そのような「いい技術」が「いい特許」によって守られて、企業の経営に寄与していく、というのは、特許の理想的な形であると私は思っています。
 ですから、このような形での「いい技術」が完成したときには、きっちりとした「いい特許」を成立させることを目指すことが重要になります。せっかく「いい技術」が完成したのに、特許で失敗してしまえば、それまでの研究者の努力が水の泡になってしまいます。

 そのためには、出願時にきっちりとした明細書を作成すること、中間手続では手抜きをせずに粘れるところはどこまでも粘ることが必要になると思います。
 では、もっと具体的に、どうすればいい特許になるのか? ということは、個々の案件毎に異なるでしょうし、ここで一般的なこととして申し上げることはできません。特許のことで「一般的なこと」として何かを話すのは、実はとても危険なことで、誤解を招きやすいと私は思っております。
 もしも、このようなことについて、具体的な弊所の意見が聞きたい、というようなことがあれば、ご遠慮なくお申しつけ下さい。
お問い合わせはこちらから→http://www.yagi-tokkyo.com/inquiry/

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

2010年6月 9日 水曜日

PCT出願をされた方への注意

WIPOが、国際出願を行った方に向けて、注意喚起をされているようです。
それによると、PCTで国際公開された出願の出願人に対して、WIPOとは全く関係なく、また、PCTによる出願の手続きとは全く関係のない手数料を支払うように、との書面が送られてくるケースが発生しているようです。
実は、私も知人から、「こんなものが送られてきたのですがこれは何ですか?」と質問されて、初めてこのような警告が出ていることを知りました。そしてその知人には「お金を払う必要はありません」と伝えました。
以下に、WIPOのウェブサイトに記載されていた表を転載します。
以下のような書類が送られてきた場合は、PCT出願とは関係のない書類ということになります。
WBIP - World Bureau Intellectual Property
[PDF]
May 21, 2010
IPTD- International Patents and Trademarks Database
[PDF]
March 2, 2010
IBIP - International Bureau for Intellectual Property
[PDF]
February 3, 2010
WBIP - World Bureau Intellectual Property
[PDF]
January 8, 2010
WBIP - World Bureau Intellectual Property
[PDF]
November 11, 2009
IOPTS - International Organization for Patent & Trademark Service
[PDF]
August 11, 2009
IRTP - International Register for Trademark & Patent
[PDF]
May 7, 2009
IBFTPR Service - Register of International Patent Application
[PDF]  
May 4,2009
ODM - Patent Trademark Register
[PDF]
March 23, 2009
IPTR - International Patent and Trademark Register
[PDF]
December 19, 2008
IBIP - International Bureau for Intellectual Property
[PDF]
December 10, 2008
RIPT - Register of International Patents and Trademarks
[PDF]
August 21, 2008
IBIP - International Bureau for Intellectual Property
[PDF]
April 15, 2008
ODM - Patent Trademark Register
[PDF]
February 20, 2008
IBFTPR - International Bureau for Federated Trademark & Patent Register
[PDF]
November 21,2007
IOIP - Organization for Intellectual Property
[PDF]
August 10, 2007
ODM - Register of International Patents
[PDF]
August 2, 2007
ODM - Office Data Management
[PDF]
May 31, 2007
IOPTS - International Organization for Patent & Trademark Service
[PDF
May 31, 2007
FIPTR - Federated Institute for Patent and Trademark Registry Inc.
[PDF]  
January 9, 2007 
CPTD - Central Patent & Trademark Database
[PDF
September 22, 2006
CCIT - Commercial Center for Industrie and Trade
[PDF]
March 13, 2006
CPD - Central Patent Database
[PDF]
June 22, 2005 
Register of International Patents
[PDF]
June 28, 2004
Register of International Patent Bulletin/Registre des données bulletin europeén des brevetes
[PDF]
September 5, 2003
Institut of Commerce for Industry, Trade, Commerce/Wirtschaftsinstitut für Industrie, Handel, Handwerk AG
[PDF]
September 5, 2003 
Central Data-Register of International Patents
[PDF]
August 9, 2002 
 
それにしても、この表を見ていると、短期間でどんどんと様式や名称が違うものが出ていることが分かります。
別の業者なのかもしれないですが、同一の業者が名前を変えながら同じ手口を繰り返している可能性もあります。
従って、今後、同じような手口で振り込みを要求する別の名称の業者が出てくる可能性もあると思われます。
基本的に、PCT出願を行った後各国以降までの間、公的な官庁からこのような形で請求書が送付されてくることはありませんので、ご注意下さい。
 

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

2010年6月 7日 月曜日

化学特許③

 化学特許について、以前、
「製造方法が特徴になってしまいやすい」
ということを問題として書かせて戴きました。
 今回は、これがどういうことかについて、少し書かせて戴きます。
 化学の発明において、「できたもの」が何かが分からない場合は、案外多いです。
 ベンゼンが化学構造上六角形をしているという話にしても、目で見たときに六角形をしている、ということではありません。みかけはただの透明な液体です。それが、過去の研究と理論の積み重ねから、あの六角形が導かれたわけです。
 昔、あの六角形が明らかになっていなかった時代は、ベンゼンという化合物ができた、と言ったところで、それがどんな化合物か、化学構造式で表現することはできなかったわけです。
 そして、今、分析技術は進み、化学についての知見も随分と蓄積されました。
 だからといって、すべてのものについて厳密に化学構造式で表現できるわけではないですし、ましてや新しい技術であれば、化合物の構造を解析しているような余裕はない場合も多いです。
 表現できなかったらどうするのかというと、
(1)製造方法で説明する。
(2)物性で説明する。
の2つが考えられます。
 このうち、(2)が化学の分野でいつも問題になる「パラメータ特許」です。これは化学分野の特許の方はよくご存じの通りのものです。取り扱いが一筋縄でいかないものであり、私もあちこちでレクチャーをすると、「パラメータ特許について話をして下さい」という要望は非常に多いです。
それだけ扱いにくいもの、ということです。
 これに対して、「(1)製造方法で説明する」という方法は比較的簡単です。自分が実験した方法を自分がやったとおりに説明すれば、それで説明できたことになるからです。
 最終の構造がはっきりしなくても、「AとBとを混合して反応させてできた化合物」と書けば一応、説明したことになります。
 このような製造方法の発明であれば権利化もしやすいですし、明細書も書きやすくなります。しかし、です。
 製造方法の発明は他社の侵害の立証が非常に難しいものになります。他社の工場に入らずにどうやって製造しているか、製造方法を明らかにするのは至難の業です。
 場合によっては、特許出願をせずに秘密にしておけば邪魔されずに済んだのに、特許出願したせいで真似されてしまった、という本末転倒に陥ることもあります。
 一応お断りしますが、製造方法特許が一概に悪いわけではなくて、ものによっては製造方法の特許で目的を充分に達成できる場合もあります。それに、ライバル会社としては、製造方法特許であっても、ある種の「怖さ」を感じるので、そのまま真似をするのにはやはり抵抗があるものです。
 しかし、深く考えずに製造方法でなければ特許にならないから製造方法で、という判断で済むほど簡単な話でないということは覚えておいて戴いてもよいのではないか、と思います。
 

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

大きな地図で見る所在地〒532-0011
大阪府大阪市淀川区
西中島5-5-15 新大阪セントラルタワー南館4F
[ホームページを見たとお伝えください]06-6307-2278FAX:06-6307-2281受付時間月曜~金曜:9:30~17:00
定休日:土曜・日曜・祝日

詳しくはこちら