特許コラム

2010年8月 4日 水曜日

暑いので

暑いですね。
今年の私は、7月初旬くらいから早くも夏バテ状態と、早々に暑さに負けたので、ここ最近はお固いブログを書く気になれないでいます。それでもここ数回は頑張って書いたものの、今日はもうムリという感じです。
 
ので、たまにはちょっとどうでもいい話でも。
 
先週、テレビを見ていたら、とあるお笑い芸人が、
「(テレビ収録の)ひな壇の椅子にずっと座っていたら死んじゃう」(うろ覚えですが)
と言っていました。
 
いや、もっと正確に言うと、アメトーークの「一人呑み芸人」でU字工事の福田が言っていたわけですが。
どういう流れかというと、家で一人で呑むときに座椅子に座って周りに酒やらおつまみやらを揃えて一人で呑むのが気持ちいいと。その座椅子の座り心地がテレビ収録のときのひな壇の椅子なんかよりずっと座り心地がよくて……という話から出てきた一言だったわけです。
 
芸人さんは大変、ということです。
仕事場で座っている椅子について、「この椅子にずっと座っていたら死んじゃう」と思うって、どれだけ仕事が辛いんだ、と笑ってしまいました。
 
とはいえ、今、本当に芸人さんは辛いだろうなぁと思います。次々と芸人さんがテレビに送り込まれてきて、飽きられるとすぐに捨てられるわけで、そんななかで生き残っていけるかのプレッシャーは並大抵ではないでしょう。
長く続いたお笑いブームも遂に終焉? と言われていますから、これから激しい生き残り競争が始まるんじゃないか、と戦々恐々としているだろうな、とも思います。
 
とか考えていたら、どっかで聞いたような話? と思ってしまいました。
弁理士の世界の現状と一緒じゃないか、と。
 
試験を簡単にして入口を広くして、最初は知財がブーム的になって仕事が増えているから良かったものが、リーマンショック以降は知財ブームも終焉を迎え、これから淘汰の時代が始まる、と戦々恐々としているという。
そう思って考えると、「お笑いブーム」と「知財ブーム」もここ10年ほどの間は似たような軌跡を描いてきたんだなぁと思います。(いや、もちろんただのこじつけですが)
 
バラエティー番組を見ているだけでこんなことを考えてしまうあたり、特許事務所の経営者らしくなったなぁと、よく分からない結論に持ち込んで、今日のブログを締めさせて戴きます。
このいい加減な感じもすべて暑さのせいということで。

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2010年8月 2日 月曜日

外国出願の基礎知識(PCTルートでの出願とパリルートでの出願)

  基本的に外国出願については、特許部が充実している大企業以外は事務所に依頼することがほとんどだと思います。実際、特許部が人数・質ともに充実している会社は別として、普通なら特許事務所に依頼したほうがいい、と思います。
期限管理が多いですし、送られてくる英語の書類に難しいことが書かれているわけではないのですが、量が多くなるので慣れていないと負担になります。
 
 事務所に依頼されるのであれば、重要なことは2つです。
①日本出願から1年以内に出願する。
②PCTルートで出願するか、パリルートで出願するかを決める。
 
 ①については、深い説明はいらないでしょう。ある程度特許を経験された方はご存じのことでしょう。なぜ1年以内? とかいうことを説明すると長くなるので、ここは1年でやる、ということだけ覚えておいて下さい。
 
 ②ですが。
 「外国出願したい」と特許事務所に相談されて、
「PCTで出願しますか? パリルートにしますか?」
と質問されて、何それ? と思った方も多いと思います。
分かってしまえばたいしたことではないのに、分からないと納得のいかないこと、の最たるものがこの部分かもしれません。
 
 結局は「どっちでもいいですよ」ということが前提にある、と思って下さい。どっちのルートで行っても最終的には外国で権利化ができるわけで、どちらかのルートで出願したせいで特別不利に扱われるということも(基本的には)ありません(少し例外があるのが厄介なところですが)。
 
 要は手続が違うだけで、内容は本質的に一緒です。ですから、
(i)外国出願時点で、外国事業展開も決まっているし、早いうちに全部やってしまいたい、というならパリルートでの出願
(ii)外国出願時点では、今後の海外事業展開に見えていない部分が多いから決定を先送りしたい、というならPCTルート
がコスト面では有利になりやすい、というイメージで良いのではないでしょうか。

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2010年7月29日 木曜日

人に訴える議論

先日ご紹介した、「論理病をなおす」(香西秀信著 ちくま新書)という本を読んでいて思ったことのネタです。
 
この本のなかに「論より人が気に喰わない――人に訴える議論」という章があります。ここでは、「人に訴える議論がなにか」ということを説明するよりも、本のなかで挙げられた例を示すほうが話が早いと思います
この本で挙げられている例の一つは、以下のようなものです。
 
「教育学者のAが『ゆとり教育論』という本を書き、受験学力に毒されない、実社会で生きて働く「確かな学力」を習得する必要を熱っぽく論じた。この本は評判になり、Aは各地の教育団体から招待され、講演旅行に忙しく飛び回っていた。がAと専門を同じくする教育学者で、Aの同僚であるBは、その様子を苦々しそうに眺めてこう切り捨てた。
「Aはゆとり教育の勧めなんて綺麗事を言っているが、自分の子どもは二人とも私立の中高一貫の進学校に入れている。しかも、地元にある学校では満足できず、わざわざ東京で下宿させて通わせているのだ。他人の子どもはゆとり教育で阿呆にして、自分の子どもだけは一流大学に進学させるつもりなのだ。みんな、騙されるな!」(「論理病をなおす」香西秀信著 ちくま新書 135頁)
 
いかにもありがちな話です。
すなわち、「何を言っているか」ではなくて「どのような人間が言っているか」という点から、この議論の内容に反論するということです。
 
上の例であれば、誰が言ったかに関係なく「ゆとり教育」の是非の論理さえ正しければそれでいいじゃないか、という考え方もあるわけです。
しかし、話者が自分の主張する論と矛盾した行動を取っていると、急に説得力がなくなってしまう、というのは自然な考えでしょう。
 
ここについての具体的な議論は香西氏が詳細に行っており、非常に面白いものでした。
興味のある方は、是非お読み戴くといいと思います。
 
そこの議論のなかで、香西氏の議論に非常に共感したのは、
「私は、人は論とは必ずしも切り離せないと思っている」
との一言です。
 
理屈の上では「理論が正しければ、語っている人の人格は無関係」という考えもあるでしょう。しかし、現実の世の中ではそんなことは絶対にありません。
 
特許の仕事においても、それは言えるところがあります。特許の世界は理屈がすべてではあります。
しかし、その「理屈」のなかには香西氏がいう「人に訴える理論」も含まれている、と私は思っています。
訴訟の判決等をみると理路整然と書かれていて、そういった「人に訴える議論」の入ってくる余地はないように思われるかもしれません。
 
しかし、特に訴訟などでは、裁判所に出向いて原告被告が議論をするわけですから、そういった過程で出てくる諸々の主張・矛盾等が結論に与える影響は無視できないものがあると思います。
実際、「包袋禁反言」であったり、米国特許制度のIDS等はこういう「人に訴える理論」に関するものなのかな、と思ったりもします。
 
もっと具体的な例を挙げて説明できればいいのですが、特許というのは秘密に関わる部分があるだけに、こんな漠然とした話でもどかしいです。
しかし、特許の仕事の色々な局面でも「人に訴える議論」が発生している、と思っておくのは重要ではないかなぁと思っています。

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2010年7月22日 木曜日

特許人が書く正しい掲示

 前回、「論理病をなおす」という本を紹介させていただいた際に、
「『公園において樹木を折り取るべからず』との掲示に対し、『竹』は樹木でないから折り取っても構わぬと、解釈する人がありとしたならば、その解釈は立法者の意思に反した解釈である」
という一節を紹介させて戴きました。
 
 そして、それとともに、「特許の世界の解釈であれば、『公園において樹木を折り取るべからず』と書いてあれば、竹は折り取ってもよい、と解釈する」という趣旨のことを書かせて戴きました。
 
では、特許人としてこの場合の正しい掲示とは、どんな文章なのでしょうか?
 
まず、誰でも考えるのは
「公園において樹木又は竹を折り取るべからず」
という言葉はどうか? ということですね。
しかし、
「じゃあ、ススキを折るのはいいんだな」とか「ササはいいんだな」とかいう屁理屈が生まれる余地があります。
 じゃあ、いっそ
「公園において植物を折り取るべからず」
とすればいいんじゃないか。
 これなら、植物全般になっているので、樹木以外も広く禁止できます。
 しかし、
「じゃあ、折り取るんじゃなくて、根っこから引き抜いたり掘り返したりするのはいいんですね」
という解釈が成り立ちます。
 それなら、
「1 公園において植物を折り取るべからず
2 公園において植物を引き抜いたり、掘り返したりするべからず」
とすることが考えられます。
 しかし、そうすると、町内会の掃除のときに近所の人が雑草を抜いたりするのもいけないってことか? ということを言い出すわけです。
「1 公園において園芸用に植えられた植物を折り取るべからず。
2 公園において園芸用に植えられた植物を引き抜いたり、掘り返したりするべからず。」
 段々と面倒くさくなってきました。
 
 それに、「花が枯れた後に種ができていたら、それは勝手に取ってもいいんですか?」ということを言い出す人が出てきたりすると、それはどっちが正しいのか、町内会で議論しなければならなくなります。
 
 そうすると・・・。
 きりがないので、この辺でやめておきます。
 
 結局、特許を書くというのは、こういう作業をしているような感じです。
 そして、どこまで根を詰めて考えても、全く抜けのない完璧な「掲示」はできないのです。
 
 しかし、だからといって、「公園において樹木又は竹を折り取るべからず」という一文でよし、とすることは絶対にできません。
 面倒くさいと言ってしまうとそれまでになるのですが、そこを細かく詰めていくことが特許の仕事なのかな、と私は思っています。

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2010年7月20日 火曜日

「論理病をなおす!―――処方箋としての詭弁」

 今回は、最近読んだ本の話です。
 「論理病をなおす!―――処方箋としての詭弁」(著者 香西秀信 ちくま新書)です。
 
 私は香西氏の本を読むのは2冊目で、前に「論より詭弁」(光文社新書)を読みました。裏表紙の香西氏の紹介を読むと、氏は宇都宮大学教育学部教授、専門は修辞学(レトリック)と国語科教育学とあります。
 
 こう書くと特許と関係ない本? と思われるかもしれません。修辞学というものを勉強したことがある弁理士の方は少数派でしょうし、私が「論より詭弁」を買ったときも、仕事に関係がありそう、と思って買ったわけではありませんし、修辞学に関する本も初めて読みました。
 
 この本では「詭弁」が最も重要なテーマです。
 そのなかで、「多義あるいはあいまいさの詭弁」の一例として挙げられている例に、
「『公園において樹木を折り取るべからず』との掲示に対し、『竹』は樹木でないから折り取っても構わぬと、解釈する人がありとしたならば、その解釈は立法者の意思に反した解釈である」
というのがあります。(この例は、香西氏オリジナルの例ではなくて『詭弁と其研究』(荒木良造 大正十一年)からの引用とのことです)
 これを見ると、特許の世界の人は苦笑してしまうのではないでしょうか。
 
 特許の世界では「公園において樹木を折り取るべからず」という文章であれば、「樹木でない竹」は折り取ってもよい、と解釈するのが普通の考え方です。
 それが、世間一般でみれば、「詭弁」と判断されてしまうわけですね。
 
 それはさておき。
 本書では、上述したような例を多く挙げて、分類・解説を加えていきます。
 
 以前、本ブログでも書いた「文系的な論理性」というのは、こういった修辞学的な論理と密接に関係していると思います。
 ですから、特許の仕事をするのなら、きちんと学んだのか、経験から勘として身に付いたかは別として、このような修辞学の基本的な事項くらいは知っておかなければならないと思います。
 
 なにしろ、明細書を書くにせよ意見書を書くにせよ、また、無効審判などで他社特許を潰しに行くにせよ、すべては「文章」によって行うのです。
 ですから、隙なく緻密な論理に基づいた文章を書ける、という修辞学的技術を持っていれば、それは必ず有利に働きます。
 
 また、著者は、
「詭弁を学ぶことで、相手の用いた詭弁を自ら議論の武器にすることができる」
「詭弁を学べば・・・(中略)安易に詭弁など使えなくなる」
「詭弁を研究、勉強することで、人間がものを考えるときの本質的な「癖」のようなものが見えてくる」
という3つを詭弁を学ぶ効能として示しておられます。
 
 このような効能が得られるのであれば、確かに、特許の仕事をする人間は「詭弁」を是非学ぶべきでしょうし、それは仕事に役立つことではないかと思います。
 
 この本は、素人にも非常に分かりやすく書かれていて、「修辞学」の入り口としては非常にいい本ではないかと思います。
 まあ、普通の人からすれば、特に前半などは、重要なのかどうかも分からない屁理屈めいた文章を読まされて、面倒くさくなるのかもしれません。
 しかし、特許の仕事をしている人が語ることも、同じくらい面倒くさいことなので、こういう屁理屈めいた文章を「楽しい」と思えるくらいでないと、特許の仕事はやっていけないのかもしれません。
 
 この本は、私にとって、色々と派生的に考えさせられたことなどもあるので、この本をネタにあと何回かブログを書かせていただきます。


投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

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