特許コラム
2010年11月16日 火曜日
特許庁面接(3)
特許庁面接(3)
※前回(1)、(2)から少し時間が空きましたが、続きです。
特に、今回は以前の記事につながっているので、まだ(1)(2)をお読みでない方は、そちらからどうぞ。
ポイント④
審査官を怒らせない。
これも、「何を当たり前のことを」ということのように聞こえるかもしれません。
しかし、誰かの意見を論破しようとするとき、ついつい言い過ぎて相手を怒らせることはよくあります。また、自分の意見が論破されたときに、つい感情的になってしまうこともあります。
また、前回、ポイント③として、会話の主導権を握るためにこちらから質問するような形で話を進めたほうがよい、と書きました。
しかし、それにもさじ加減というものがあります。何でもかんでもこちらが主導しようとして、詰問するように審査官を問い詰めれば、審査官としてもいい気はしないでしょう。そうなると、こちらが作ったレールにうまく乗ってくれない、ということにもつながりかねません。
もちろん、特許の論理というのは、感情で判断すべきものではありません。理論がしっかりしていれば、審査官を怒らせようとも、面接の目的を達成できる場合はあるでしょう。とはいえ、審査官も人間です。
あまり頭ごなしに自分の考えばかりを言って追い詰めると、臍を曲げる人もいるでしょう。更に、こちらが論破されたからといって感情的になっても、その先に道が開けることはありません。
特許法を見ていただくと分かるように、審査官は「拒絶すべき理由を見出さない場合」特許にするわけです。「特許とすべき理由」を積極的に見つける必要はないのです。
そういう意味では、審査官は敵ではありません。審査官の仕事は「適正な特許査定をすること」であって、「拒絶査定にすること」ではないと思います。
ですから、こちらがちゃんと筋を通して、理屈に合った冷静な対応をすれば多くの審査官は妥当な対応で返してくれます(残念ながら例外もありますが)。
そういう意味では、論理的な議論をするとはいえ、熱くなりすぎず冷静な気持ちでやったほうがいいと思います。
そこが、審査官面接(1)でも申し上げた
「ポイント①
面接は、言いたいことを言いにいくのではなくて、どうすれば特許が通るのか情報を仕入れにいくためのもの」
から繋がってくることです。
また、特定分野の審査官は、人事異動で別部門に移るまでの間、特定分野の審査ばかりをやることになります。ですから、同じ審査官が別の案件で再び担当になることもしょっちゅうあるのです。そのときに、悪い印象を持たれているのは、あまりよいことではないと思います。
最初から喧嘩を売ろうとして審査官と接する人はおられないとは思いますが、結果として喧嘩腰になってしまうことはあるように思います。
慣れないうちは、こちらの意見を論破されてしまうと感情的になってしまう人もおられるかもしれません。
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2010年11月15日 月曜日
弁理士試験
今年の弁理士試験の結果が出ましたね。
合格された方、お疲れ様でした。
という以上に何も言葉が出てこないのは何故なのでしょうか。
今年弁理士試験に合格された方の置かれた状況は、私が弁理士試験に合格した頃とは何もかもが違っているので、なんと言ってよいのやら、という気分です。
新しく弁理士になられる方へのアドバイス、といっても残念ながら思いつくことが全くないです。
が、一つだけ。
弁理士になられたら、好きなようにして下さい。自分が正しいと思うこと、自分がやりたいと思うことをやって下さい。
そんなことできっこない、と思うかもしれません。
好きにやってその結果失敗したらどうするんだ、っておっしゃるかもしれません。
でも、「じゃあ、どうやれば好きにやって、やっていけるのか?」とだけは質問しないで下さい。
好きにやるというのは、どうやってやるのかを全部自分で考えるということでもあります。もちろん、会社や特許事務所に勤めていれば、「組織の論理」で動く部分が非常に多いですから、「好きなように」やることは難しいと感じる場面もあるでしょう。
でも、だからといって、どうすればいいのか人に質問するということは、「好きにやっている」ことにならないでしょう?
「資格を持っている」というのは、自分の心のなかにほんの少しだけですが、「自由」の空気を感じられるということでもあるように思います。言い換えると、(独立しない限りは)本当にただそれだけ、という気もします。
あとは、自分で考えて下さい。
何しろ、今、これだけ弁理士の数が増えているわけです。「人から言われたようにやる」というだけだったら、資格を取ったところで先の人生なんて何も開けてきません。
私も、これから先、自分の好きなようにやっていくつもりですし、その点に関しては今年合格された皆さんと大して変わりない立場です。
「そんなこといって、独立して自分の事務所を構えられるようになったから、簡単に自由なんてことを言えるんでしょう」
そんな言葉が聞こえたような気がします。ダメですよ。そんなことを言っては。少なくとも、弁理士になったことで人生を変えたいと思っているのなら。
エーリッヒ・フロムに「自由からの逃走」という極めて有名な著作があるそうですね。
いや、私はこの本読んでいませんが。でも、タイトルとネットで見る概要で、少しは内容が予想できます。
つまりは、そういうことです。
あとは、自分で考えて下さい。
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2010年11月11日 木曜日
ノーベル賞と特許
2010年ノーベル化学賞の報道の際に、「特許を取得していなかった」ということが大きく報道されました。
そこで、歴代のノーベル賞受賞の方々の特許出願を調べていると、以下のような資料が特許庁ウェブサイトで公開されているのを見つけました。
日本人ノーベル賞受賞者(自然科学分野)の特許出願件数 | |||
受賞年 | 受賞者名 | 分野 | 特許出願数(日本) |
2002 | 田中 耕一 | 化学賞 | 17 |
小柴 昌俊 | 物理学賞 | 0 | |
2001 | 野依 良治 | 化学賞 | 167 |
2000 | 白川 英樹 | 化学賞 | 35 |
1987 | 利根川 進 | 医学・生理学賞 | 4 |
1981 | 福井 謙一 | 化学賞 | 191 |
1973 | 江崎 玲於奈 | 物理学賞 | 29 |
1965 | 朝永 振一郎 | 物理学賞 | 0 |
1949 | 湯川 秀樹 | 物理学賞 | 0 |
2007年8月までに出願公開又は登録された件数
(発明者として特許出願等に関わった件数):特許庁調べ
(発明者として特許出願等に関わった件数):特許庁調べ
こうして見ると、化学賞受賞の方の出願件数が圧倒的に多いという傾向ですね。物理の基礎研究は特許につながらないでしょうし、生理学も多くの特許出願を出すような分野ではないですし。
化学賞の先生方のなかで、触媒に関する技術で応用範囲が広い野依先生の出願件数が多いのは分かるとして、フロンティア軌道理論の福井先生の特許出願件数が多いのはどうしてなのでしょうか。理論系の先生というイメージがあって、特許につながりにくそうな気がするのに、最多なんですね。
今回の受賞者の鈴木先生、根岸先生が特許を取得されなかった事情はよく分かりませんが、こうして見ると、一般にはやはり大学の先生も特許出願されていることが分かります。
しかし、基礎研究を行っておられる方が特許を出願すべきなのかどうか、というのは難しい問題ですね。
先日、某大学の理学部の教授の方とお話したときに、
「国立大学における研究の成果は、広く一般に開放すべき技術だ」
というようなことをおっしゃっていて、特許を出願することは考えていない、ということでした。
その考えも一つの正しい考え方でしょう。
反面、「税金を研究費に充てているのだから、国家としての利益に資するようにすべき」という考えから「特許を所得すべき」という考え方もまた、正しい考え方です。
今回のノーベル賞で、この部分をどうすべきなのか、という議論が少しでも発生すればいいな、というのが私の気持ちです。
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2010年11月10日 水曜日
審査官面接(2)
の続きです。
ポイント③
ポイント③
自分たちの説明を主体にするのではなく、審査官への質問を主体として話を進める
私が最も大切だと思っているポイントです。
どうも、議論に弱い人は、自分の考えを滔々と述べることに一生懸命になってしまい、相手への問いかけを重視しない傾向にあるように思います。
しかし議論においては質問する側に回ることは重要であると思います。例えば、審査官が引用した文献1に「アルコール」とだけ記載されているけれど、本願ではプロパノールを使用していて、引用文献1には「プロパノール」は記載されていない、と判断して欲しい場合を考えましょうか。
(例1)
出願人「引用文献1にはアルコールと書かれていますが、アルコールはメタノールもエタノールも色々あります。具体的にプロパノールが記載されていないのだから、引用文献1にプロパノールが記載されている、とする審査官殿の判断は誤りです」
審査官「しかし、プロパノールはアルコールでしょう? じゃあ、なぜ引用文献1のアルコールがプロパノールを含まない意図だと言えるのですか?」
出願人「引用文献1に記載されたような用途では、アルコールは普通メタノールかエタノールを使うので、プロパノールを使うことはほとんどないです」
審査官「引用文献1の用途でプロパノールを使うことは全くないということですか?」
出願人「いいえ。全く使わないというわけではないです。コスト的にエタノールのほうが安いので」
審査官「でも、機能的には同じでしょう? だったら、引用文献1にプロパノールも記載されていると判断すべきだとは思いませんか?」
出願人「でも、本願発明では、プロパノールを使わないと得られない効果があるので、そこのところも考慮して欲しいのですが……」
審査官「ふーん。なるほどねぇ」
(例2)
出願人「審査官殿は、引用文献1に「アルコール」と記載されていることから、引用文献1には「プロパノール」が記載されている、と判断されていますね? でも、引用文献1ではプロパノールは具体的に記載されていないと思うのですが、それでもプロパノールが記載されている、と判断されるのですか?」
審査官「そうですね。引用文献1の用途で、プロパノールが使用できないとする根拠があるのなら別ですが、アルコールと書いてあれば、当業者ならプロパノールに想到すると判断しています」
出願人「引用文献1の用途ではほとんどの場合、メタノールかエタノールを使うので、プロパノールを使用することはほとんどないのですが、それでも駄目ですか?」
審査官「全く使用されないというのであれば、検討の余地があるかもしれませんが、そこはどうなんですか?」
出願人「全く使用されない、とまでは言えないです。コスト的にエタノールのほうが安いので。とはいえ、コストということで審査官殿の判断を覆すのは苦しいですかね? やはり判断基準は機能ですか?」
審査官「まあそうでしょうね」
出願人「でも、本願の場合は、プロパノールを使用したときにだけ得られる効果があるので、そこのところも考慮して戴きたいのですが、そこはどのようにお考えですか?」
審査官「ふーん。なるほどねぇ」
この2つの例は、議論の内容は同じです。でも、読まれた印象はずいぶん違うように感じませんか? 質問をしている側(例1なら審査官、例2なら出願人)が会話の主導権を握っている、と感じませんか?
それだけのことなのに、最後の審査官の「ふーん。なるほどねぇ」という言葉のニュアンスにも差が出ているように思いませんか?
正直、相手が「敵」である場合には、こんなに簡単に質問する側に回れないのですが、審査官は敵ではありません。基本的にはこちらの話を聞こうという姿勢で来られるわけですから、こちらが話の主導権を握ろうとすれば、案外すんなりと主導権を渡してくれます。
また、面接の依頼をする際に、審査官の方から、
「どんな話をするのですか?」
と質問されることがあります。そのとき、私は
「拒絶理由の解釈で分からないところがあるので、その点について教えて戴きたい」
という言い方をすることにしています。
実際の場面でも、こちらからの質問を主体に話を進めるわけですから、実情に会った回答です。
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2010年11月 9日 火曜日
審査官面接(1)
弁理士の仕事は色々ありますが、そのなかの一つで弁理士の能力の差が一番でやすいところである、特許庁での審査官面接について、何回かに分けてお話させて戴きます。
ここのブログをこれまでに拝見された方はお分かりでしょうが、私は一つの話題を延々と続けるのが苦手なので、他の話題を挟みつつの気まぐれ更新になると思いますが、お付き合い下さい。
毎度のことですが、本題に入る前にお断りをします。
ここで書くのは「私のやり方」です。私は特許の仕事を始めて15年程度、その間に何度も審査官面接をやってきました。そのなかで、「私が正しい」と思うやり方をここで書かせていただきます。
面接のやり方は人それぞれで、正解のあるものではありません。しかし、「やらないほうがいいこと」「気をつけたほうがいいこと」があるように私は思っています。そういうちょっとしたコツのようなものを知っているだけでも、ずいぶんと結果が変わってくると思います。
また、ここで私が書くやり方が正しくない、と思われるのならそれで結構です。弁理士たるもの、自分の考えややり方があって然るべきであり、それが私のやり方と違っていたとしても、それは何の問題もないことです。
ただ、経験が浅くて、面接をやるときどこに気をつければよいか分からない、という方もおられると思うので、そういう方のために私なりの経験で考えていることを公開するという趣旨です。
あくまでも、「自分のやり方」を作っていくうえでの参考とするものと考えてください。
前置きが長くなりました。本題に入りましょう。
私が考えるやり方は幾つかポイントがあります。それを順次述べていきます。全部書いていくと長くなるので、このテーマは何回か続くことになります。何回になるかは自分でも分かりません。書くことがなくなったときが終わるときです。
ポイント①
面接は、言いたいことを言いにいくのではなくて、どうすれば特許が通るのか情報を仕入れにいくためのもの
これは、私の考えの根本です。
審査官はバカではありません。拒絶理由において審査官が言っていることは、ほとんどの場合、一応の筋が通っていることです。
それに納得行かないから「納得行かない」と言ったところで、「ああそうですか」と言われてしまうだけです。
審査官に対して「あなたの言うことは間違っている」と大見得を切れば気持ちはいいでしょう。しかし、それを言われた審査官が「分かりました。じゃあ特許にしましょう」と言うことは基本的にはないわけです。
あくまでも、特許査定を得るためにはどうすればいいのか、ということだけを考えて、審査官の判断の中で議論の余地があるところを何とか見つけ出して、そこについて審査官と話し合う、ということが根本姿勢になると思います。
その場で合意に至らなかったとしても、少しでも役に立つ情報が仕入れられればそれでいいと思うべきではないでしょうか。
ポイント②
拒絶理由通知をちゃんと読む
何を当たり前のことを……と思うかもしれません。
しかし、これがきちんとできていない人は結構いますよ。読むだけではなくて、拒絶理由において指摘された事項のどこで反論をするのか、自分のなかで決めておくことは必須でしょう。
上の①とも関わることですが、拒絶理由通知のなかでは反論しても無駄なところと、反論の余地があるところとがあります。反論しても無駄なところで反論すると、
「あ、この人、審査実情を分かっていないな」
という印象を審査官に与えるだけで、何のプラスもありません。
読みながら、反論の余地のあるところないところを区別して、反論の余地のあるところの議論のみを行う、という姿勢は重要だと思います。
と、ここまでは「当たり前」のことです。
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