特許コラム

2010年11月26日 金曜日

最近の知財ニュース


 最近、あれこれと訴訟関連のニュースが出ていますね。
 主だったところでは、「どん兵衛」事件
(リンク切れの場合はご了承下さい)
とか、モンシュシュvsゴンチャロフ
(リンク切れの場合はご了承下さい)
といった、商標事件が目立っています。
 
 が、私は、東ソーvsミヨシ油脂の特許訴訟事件で、12億の損害賠償を認める判決が出た、という件に一番興味をひかれました。
 
「ミヨシ油脂に12億円賠償命じる=東ソーの特許侵害で、生産禁止も-東京地裁
 ミヨシ油脂(東京都葛飾区、東証1部上場)が製造・販売する重金属固定化処理剤が、特許権を侵害しているとして、化学製品大手の東ソー(港区、同)が生産差し止めや27億円余の損害賠償を求めた訴訟の判決が18日、東京地裁であった。大鷹一郎裁判長は特許侵害を認め、ミヨシ油脂に生産禁止と約11億9200万円の支払いなどを命じた。
 ミヨシ油脂側は「東ソーの特許は出願時点で既に公表されていた発明と同じで、無効だ」などと主張したが、大鷹裁判長は「公表済みだった発明と同一とはいえない」と退けた。
 問題となったのは、ごみ焼却施設で飛散する灰の処理に使われる製品。判決などによると、東ソーが1995年に特許出願し、2003年に登録された技術が使われている。ミヨシ油脂は01年ごろ販売を始め、東ソーの製品と競合していた。
 ミヨシ油脂法務・広報室の話 承服し難い。控訴して当社の正当性を主張する。(2010/11/18-20:08)」(時事ドットコム)
 
(リンク切れの場合はご了承下さい)
 
 化学系の事件ですし、12億とはかなり巨額の損害賠償事件です。これは面白そうと思って調べたところ、まだ判決文が公開されていないようで、残念ながら詳細は分かりません。判決文が公開されれば、是非内容を読んでみようと思っています。
 
 が、その前に、とりあえずどんな特許なのか登録公報だけでも取り寄せてみようと思い、記事に該当すると思われる特許を読んでみたのですが……。
 
 何と申しましょうか。
 非常にあっさりとした明細書です。発明の内容は基本的に単純であることから、それで過不足なく記載されているのでしょうが、あまりこねくり回した形跡のない明細書です。
 また外国出願なども行っていないようで(当方では見つけられませんでした)、決して、非常に力を入れて特許出願をした案件ではないように見えます。
 少なくとも、この特許で訴訟を行って12億円が得られるかもしれない、と出願時点から考えていたとは思えません。
 
 しかし、そういうものなんですよね。私も訴訟までは行かなくとも、もめた特許というものを見てきましたが、出願時から「これは重要だ」と思っていたような特許の場合と、そこまで重要と思っていなかったような特許の場合とで、半々ぐらいであるような気がします。
 
 特許にあまり慣れておられない方は、一度、この事件の対象となった特許(特許第3391173号)を読んでみられてもいいと思います。
 技術内容としての意義が高いことが前提とはいえ、このようなあっさりした明細書でも大きな訴訟にまで行くことがある、ということは認識されてもいいのではないでしょうか。

 この件については、本ブログでももう少し詳しく触れたいと思っています。

(追記 以下の記事で、本事件について詳細に検討していきます)

重金属固定化処理剤事件
  

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2010年11月22日 月曜日

長谷川曉司先生の講演会

 先週金曜日に弁理士の長谷川曉司先生の講演が弁理士会近畿支部であったので、聞きに行ってきました。非常に面白く、ためになるお話でした。
 長谷川先生って誰? という方は、こちらの記事をご参照下さい。
 
また、著書としては、「御社の特許戦略がダメな理由」(長谷川暁司著、中経出版)があります。こちらの本は非常に面白いので、お勧めです。
 
 当日、個々のことでどんなことをおっしゃったか、ということは書きません。それを知りたいということであれば、実際に先生の講演を聴きに行かれたり、著書を読んだりして下さい。
 それに、私にとって長谷川先生のお話で一番面白くためになったのは、個々のお話というより、全体を貫いている「思想」のようなものだったと思います。
 
 一番印象に残ったのは、色々なことについて常に論理的であろうとするその姿勢です。本当に見習わなければならないことだ、と思いました。
例えば、講演のお話のなかで、何回も「定義」を考えてください、ということをおっしゃっていました。
 先生の講演のなかで、「特許戦略」というのは何か? それを定義するならどういうことなのか? という問いかけがありました。
 
 こういうことを問われると、案外答えられないものです。しかし、「特許戦略とは何か」という定義がなされないままに、あちこちで「特許戦略」についての議論はされているわけです。
 定義もせずそんな議論をすることに果たして意味はあるのでしょうか。
 
 そして、そういうことについては、私もこれからきっちりしていかないといけないな、と改めて思いました。私自身、このブログでもずいぶんと「論理性」というものにこだわってきましたが、もっと色々考えていかなければならないな、とも思いました。

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2010年11月19日 金曜日

特許庁面接(4)


以前の記事はこちら。
 
 ポイント⑤
 事前打ち合わせはほどほどに
 
 これは難しいところで、意見も分かれると思います。
 しかし、面接において、事前打ち合わせでのシミュレーションはある程度必要ですが、やりすぎるといけない、と思います。これは完全に私の意見なので、「そうではない、完璧な打ち合わせが必要だ」とおっしゃる方がおられたら、それを否定する気は毛頭ありません。
 
 面接というのは審査官とのやり取りですから、審査官が何を言ってくるのか想定しておいて、「こう聞かれたらこう応える」ということは考えておいたほうが、面接のときに慌てなくてすみます。
 何を聞かれても答えられないのであれば、面接に行った意味がないわけですから、ある程度の準備は必要でしょう。
 
 しかし、面接は普通、一人だけで行くわけではありません。よくあるパターンとしては、事務所弁理士1名、企業知財1名、発明者1名というものがあります。
 
 このような場合に、事前にいくら打ち合わせしたところで、全員の意志を完璧に統一することはできません。技術の理解度、審査官の主張の理解度にはばらつきがあって、それぞれの思いで、打ち合わせに行くことになります。
 
 議論というのは、その場の空気とか話の流れというものがあります。事前に「これを言う」と決めていても、当日の面接の流れ上、そんなことを言う必要はない、という状況になることはあります。
 
 でも、準備しすぎると、話の流れに逆らってでも、準備したことを言わざるを得なくなることがあります。
 一人で行くのなら、それを避けやすいですが、3人で行っていたりすると、事前打ち合わせの内容によっては、「それを言わないと、事前打ち合わせの計画が全部崩壊する」という事態にも陥りかねません。
 
 そうではないにしても、面接当日に事務所弁理士が打ち合わせで全然言っていなかったことを突然話し始めたら、他の人は戸惑うでしょう。「あの事前打ち合わせは何だったのか?」という気分にもなりませんか?
 
 私は、「当日にこれを言おう」と思って準備していたことであっても、話の流れに逆らう形になるのなら、話の流れに乗っていって、事前準備していたことと全然違うことを言っているときはしょっちゅうあります。
 そのかわり、事前打ち合わせをきっちりとやりすぎないようにします。
 
 非常に重要な特許で、しかも拒絶理由が厳しいときなどは、力が入りすぎて綿密に事前打ち合わせをしてしまいがちですが、当日に柔軟で臨機応変な対応をしようとするなら、事前打ち合わせを過剰にすることは、かえって悪い方向に向かう場合もあるように思います。
 
 それに、「これは事前打ち合わせの内容と全然違うことを審査官は思っているな」と思ったら、正直にそれを伝えて「もう一度検討します」と言えばいいだけのことです。
 そういう意味では、面接は情報収集の場、と考えるべきということでもあります。
 
 日本人というのは潔癖すぎる傾向がありますし、また、若い方等は気合が入りすぎて、考えすぎることもあるように思います。
 しかし、努力が必ずしもベストの結果につながるわけではありません。ちょうどいい頃合いを見計らうということも考えるべきではないでしょうか。

特許庁面接(5)
に続きます。
 

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2010年11月18日 木曜日

特許法改正の新聞記事(発明公表後も出願可能)


 今朝(2010年11月18日)の日本経済新聞朝刊に法改正の記事が出ていました。
 
 
「(略)……現在、公表後でも出願が可能なのは特許庁長官が指定する学会などでの発表に限られている。特許戦略で海外に後れを取り、日本の競争力を阻害する一因にもなっている。法改正によって、本人が研究成果をどの学会で発表しても6カ月以内に出願すれば特許が取得できるようになる」
とのことです
 
特許法第30条の改正ということですね。
この法改正が具体的にどのような形になるのか、良く分からないですから、発明者・出願人の方々は、くれぐれも先走りされませんようにお願いします。
今はまだ法改正も適用されていませんから、改正法の施行日が明らかになるまでは、必ず学会発表前に出願するように心がけて下さい。
 
最近は特許法の改正についても新聞記事になることが多いですが、記事になって実際に法改正されて、施行されるまでは時間がかかります。発明者の方からは、
「この前新聞でこういう記事を読んだんだけど……」
という相談をされることがあるのですが、法改正は時間かかります。今回の件も、「来年中の法改正めざす」とありますので、まだかなり先のことです。ご注意ください。
 
 まあ、これはいい改正ではないか、と思います。世の中には、自分自身で発表したのなら、公表した後でも特許を取れる、と誤解されている方が大勢いらっしゃいますから、誤解があっても救済の道がある、というのは悪いことではないように思います。
 もっとも、これが「特許戦略で海外に後れを取り、日本の競争力を阻害する一因にもなっている」という記事の文章の正否は、意見の分かれるところでしょう。私は個人的にはこの記事について、ホントか?と思います。
 
可能であるなら学会発表をしたという証明書の提出義務をなくして欲しいなぁと思うのですが、ここはどうなるのでしょうか。
 要は、「出願前6月以内に発明者自身が発表したものは、手続しなくてもすべて先行文献とならない」という形にしてくれれば、証明書作成の手間も省けますし、審査においてもそれほど不都合を生じるわけでもないように思います。
 
 いずれにしても、法改正の具体的な内容が明らかになるまでは、くれぐれも慎重にお願いします。また、法改正された後でも、できるだけ公表前に出願すべき、という原則は変わらないように思いますので、ご留意願います。

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2010年11月17日 水曜日

議論における質問の重要性

 特許庁面接において、こちらからできるだけ質問しながら話を進めたほうがいいんじゃないか、というお話を以前させて戴きました。
 
 これは何も斬新なことを申し上げたわけではなく、論理術などの世界では「常識」というべきことらしいです。
 
 実際、アメリカの大統領選挙での候補者同士の「対決」という場面での議論を見ていると、「質問」に対して「質問」で返す、ということが非常に頻繁に行われていて、ああいうものが、「ディベート」ということについて訓練を受けた人たちの「議論」なのだなぁと思ってしまいます。
 あれは、いかにして自分が議論の主導権を握るかという争いをしているんだなぁ、と考えると納得です。
 
でも、あれは本質的な議論よりも、議論に関する技能を争っているという面が強い気がするので、そこはどうなんだろう、と思ってしまうこともありますが。
 
 現在、論理学の本をまた読んでいます。それは、「レトリックと詭弁」(香西秀信著 ちくま文庫(2010年))という本で、その第1章の章タイトルは、「議論を制する「問いの技術」」とあります。
 ここでも、「議論を制する」には問いを考えなければならないということがあるわけで、特許庁面接について書かせて戴いたことにもつながることです。
 
 但し、この本で書かれているのは、「相手を追い詰めるような論理」である場合も多いので、決して特許庁面接などで使ってはいけない手法がほとんどです。むしろ、こういう言い方を避けることで、審査官を怒らせてしまうことのないよう、注意すべき、ということであるように思います。
 更には、議論に際して、相手方がテクニカルな質問でこちらを追い詰めようとしてきたとき、身をかわすための手法として勉強すべきもの、という気もします。
 
 この本の著者の香西秀信先生は、以前「論理病をなおす」という本について本ブログで取り上げさせていただきました。
 
 本書でも、相変わらずゆったりとした冷静な語り口のなかから、鋭い議論が多く出てくるので、本当に楽しく読むことができます。素人にも分かりやすいように面白く「論理学」が勉強できるような本を書かれる、という点が好きなので、私は先生のファンです。
 
 「レトリックと詭弁」も、非常に密度が濃く、かつ、面白い本なので読み終わったらまた本ブログで感想を書かせて戴きたいな、と思っています。

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

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