特許コラム
2010年12月15日 水曜日
特許庁面接(最終回)
以前の記事はこちら。
長々と続けてきたこのシリーズも、一旦終了とさせて戴きます。
最後なので、少しまとめを書いてみたいと思います。
かなり昔の話ですが、とあるクライアント企業の特許部の方に
「この件は、特許庁面接をしてみるのも一つの手かもしれませんね」
ということを提案したときに、その方が、
「今まで特許庁面接で思い通りにいったことがあまりないです。本当に特許庁面接って有効なんですか?」
とおっしゃられたことを覚えています。
お断りしておきますが、この言葉をおっしゃった方は企業知財の仕事について極めて優秀な方です。だからこそ、私はその言葉に非常に驚いたし、印象に残っているのだと思います。
その方がそうおっしゃるということは、過去にその方と一緒に行った弁理士の方がうまく面接を仕切れていなかったのではないか、という疑念を抱きました。
考えてみると、私自身、自分以外の弁理士がどんな面接をしているのか、全く知りません。企業知財時代は、特許事務所を通さない出願が多かったため、面接のときは自分で仕切っていましたし、事務所で働いていたときも他の人の審査官面接に同席したことはありません。
案外、他の弁理士も同じような状況なのではないか、と思います。
それなのに、面接について文章でまとめたものを読んだことはないです。特許の本を読んでも、法律理論について書いてはいても、このような実践的なことは書いていません。
ということは、ほとんどの弁理士は、皆、アドバイスもなく自己流で特許庁面接を行っているのではないか、という気がしました。もちろん、それでもきちんとした面接ができる方も多くおられるでしょうが、弁理士全員にそれを期待するのは酷ではないかという気もします。
このため、少し自分自身の頭の整理という意味も含めて、特許庁面接についてあれこれと書いてみた次第です。
特許庁面接において重要なのは、特許の知識や技術の知識だけではありません。交渉術や心理学等、別の部分での能力が要求される面があると思います。そういったところも含めて、皆さんも自分なりの面接のやり方を作って行って戴きたいな、と思います。
とある米国の特許弁護士の方が、「特許の仕事をするには、心理学を勉強しなければならない」とおっしゃっているのを聞いたことがあります。
その言葉は、私にとって分かったような分からないような、という言葉ではあるのですが、やはりこういう交渉や論理構成に基づく攻防、如何にして審査官の顔色を伺うか、などは確かに「人間」についてどれだけよく分かっているか、ということであるかのように思います。
本ブログで書いたことが、そういったことについて考えるきっかけになればいいな、と思います。私の意見に賛成できない、という部分があれば、それも結構です。ただ、その点に関して私が書いた文章が何かを考えるきっかけになれば、非常にうれしく思います。
ここで色々と書かせて戴いたことが、少しでもお役に立てば、と思う反面、ここで書いたことを読んで特許庁面接のすべてを理解したようなつもりにはならないで下さいね、と最後に申し上げます。
投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL
2010年12月14日 火曜日
現地で法務トラブル 7割
今朝(2010年12月14日)の日本経済新聞朝刊に、外国での法務トラブルに関する記事が出ていましたね。
「現地で法務トラブル7割 海外進出企業
主要な海外進出企業の7割以上が現地で訴訟や紛争などの法務トラブルを抱えていることが、日本経済新聞社が13日まとめた「企業法務・弁護士調査」で分かった。国別では米国と中国が群を抜き、訴訟・紛争を抱える企業の約6割に上る。案件は知的財産権問題が多い。(以下略)」
「企業は海外の法務リスクに対し、社内(従業員)弁護士を増やすなど法務部門の強化を始めた。海外のグループ会社と法務面の交流を進めるなど国内外で体制づくりを急ぐが、海外企業と比べるとなお対策が遅れている感は否めない。
(中略)これに対し、米マイクロソフトは全世界で約1千人の法務スタッフを抱え、その半数が社内弁護士だ。全世界の法務幹部は定期的に会合を開き、共通の法務戦略をとる」(日本経済新聞2010年12月14日朝刊)
前半は「ほうほう」と思って読んだのですが、後半の論評の部分を読むと、「ううむ」と思ってしまいます。
とりあえず、マイクロソフトのように、製品コピーが容易で海賊品が出やすく、全世界のあらゆる国で圧倒的なシェアを持ち、独占禁止法対策も極めて重要になる会社と、日本のメーカーとを対比することに意味があるのでしょうか(アンケート対象企業のほとんどがメーカーです)。日本にはマイクロソフトのようなタイプの会社は存在しないので、もっと比較対象になり得るような会社と比べるべきではないですか?
記事では日清食品ホールディングス、NEC、NTTデータの事例が書かれていますが、これらの会社はマイクロソフトとは業務内容も違うし、マイクロソフトの例は適切な比較対象とならないでしょう。これらの会社が目指しているところが「マイクロソフトのような会社」というわけではないでしょうし。
そもそも、アメリカというのは日本とは色々なことが違い過ぎるので、アメリカの事例は参考にならないことが多すぎます。例えば、アメリカの知財の現場で行われていることは、(経験された方は分かるでしょうが)日本では考えられないくらい、いい加減ですよ。「細かいことを気にするより、問題が起こったら訴訟で解決すればいいじゃないか」という考えのアメリカですから、特許審査はいい加減ですし、審査官もやることが雑です。きっと、知財に限らず万事がそうなのだろうと思います。
だから、米国では弁護士の活躍の場が多いわけです。万事が潔癖でなにごともきちんとやりたい日本を、このようなアメリカのやり方に寄せることは決してよいことではないと思います。
海外進出に際しては、日本のようには行かないことがあるから法務対策は重要、という結論は誤っていないと思います。しかし、そこに「日本は遅れている。アメリカを見習え」という論調を混ぜてこられると、急に説得力がなくなってしまいます。
機会があれば、米国特許について私が経験した事項の範囲内で思うところを書いてみたいとも思います。その辺を読んで戴くと、私の気持ちも分かって戴けるかもしれません。
投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL
2010年12月10日 金曜日
日本弁理士会の決議文
日本弁理士会のウェブサイトに決議文が出ていますね。
「 日本弁理士会は、昨今の特許等出願件数減少傾向を、日本の知財力の低下、ひいては産業競争力の低下をもたらす事態として憂慮している。産業財産権制度の適正な運用を担う責任ある専門家集団である日本弁理士会は、かかる事態を座視することなく、その改善に積極的に取り組むべきと考える。
そこで、日本弁理士会は、関係する政府等国家機関への提言や喚起を積極的に行うとともに、産業財産権制度の現況と展望を広く知らしめる広報活動の強化や、出願援助制度の紹介など、日本弁理士会独自の緊急施策を立案し、これを速やかに実行する。また、日本弁理士会の会員は、自らの職務を通して、今まで以上に産業財産権の重要性を説き、プロパテント政策に沿った適切な特許等出願に助力するほか、知的財産の価値の維持向上に努力する。
もって日本弁理士会は、会員とともに、政府が標榜するところの知的財産立国の実現に向けて尽力する。
以上を総会の総意としてここに決議する。
そこで、日本弁理士会は、関係する政府等国家機関への提言や喚起を積極的に行うとともに、産業財産権制度の現況と展望を広く知らしめる広報活動の強化や、出願援助制度の紹介など、日本弁理士会独自の緊急施策を立案し、これを速やかに実行する。また、日本弁理士会の会員は、自らの職務を通して、今まで以上に産業財産権の重要性を説き、プロパテント政策に沿った適切な特許等出願に助力するほか、知的財産の価値の維持向上に努力する。
もって日本弁理士会は、会員とともに、政府が標榜するところの知的財産立国の実現に向けて尽力する。
以上を総会の総意としてここに決議する。
以上
平成22年度第1回臨時総会(平成22年12月3日開催)決議 」
私自身も弁理士会の一員ですから、本ブログ中でこの決議が「間違っている」などと申す資格はありません。そもそも、この決議が妥当でないというなら、こんなブログで呟いている場合ではなくて、弁理士会の総会に行ってその旨を主張すべきでしょう。
が、反面、私が最近知財業界について考えたり、本ブログで述べさせて戴いたりしたようなことは、この決議の内容と必ずしも一致していないように思います。その点で、読みながら微妙な気持ちになってしまいました。
とはいえ、「(私のような)別に有名でもない一弁理士が言ったこと」と「日本弁理士会の公的な決議」とでは重みが全く違うわけです。ですから、「日本弁理士会の公的な決議として発信すべきこと」、が上のような決議であることは妥当だと思っています。
ただ、弁理士だって色々な人がいて色々な考えがあるのは当然のことです。業界全体としてみれば色々な考え方をしている人がいる、ということが業界の活性化には重要なのではないか、と思います。
何が言いたいかというと、要するに私の考え方は日本弁理士会の決議と必ずしも一致していないけれど、私は今までどおり本ブログでは自分の思うことを書いていきますよ、ということです。それは日本弁理士会批判という意味では全くありません。それに、それが知財業界の活性化につながるはず、と私は思っています。
投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL
2010年12月 9日 木曜日
「レトリックと詭弁 禁断の議論術講座」
「レトリックと詭弁 禁断の議論術講座」(香西秀信著、ちくま文庫2010年)を読みました。
実際は少し前に読み終えていたのですが、非常に中身の濃い本で、自分のなかで色々と考えをまとめていると、本ブログで書くのは遅くなってしまいました。
以前も書いたように、私は香西秀信氏の本が好きで、以前に「論理病をなおす!」という本について本ブログでも取り上げさせて戴きました。
また、本書についても、読んでいる途中で軽く取り上げさせて戴きました。
本書は2002年に刊行された本の文庫化ということで、少し古い本です。しかし、「論理学」というものは中身が古くなることのない学問ですし、実際にこの本は少しも古さを感じることはありません。
本書では色々な人が書いた色々な文章(小説もあれば、エッセイ的な文章もあります)についての論理的な考察を主体とするものです。取り上げた文章も「雨月物語」「徒然草」のような日本の古典、プラトン、「坊ちゃん」「カラマーゾフの兄弟」等の近代文学、村上春樹のエッセイ等、非常に幅広い範囲に及びます。
それらについて、淡々とした冷静な文章で分析を行っていくのを読んでいると、感心させられるばかりです。色々と勉強になることが多いです。
ただ、一番重要なのは、本書は「詭弁を弄する技術」を得るためのものではなく、誰かが詭弁を弄した場合にそこから身をかわすための技術、を得るための本であるということです。そこのところが、私が香西氏の本を読むのが好きである理由の一つであるように思います。
私はこの本で書かれているような手法で誰かから論理的に追い詰められることは嫌いです(いや、それが好きな人なんて誰もいないでしょうが)。
だからこそ、こういったテクニックを身に着けることで自分の身を守ることはいいことだと思います。
そして、こういう詭弁というものを知ったことで、自分自身も他の人に対して無意識のうちに「詭弁を弄する」ことから逃れることも重要だと思います。
私自身、こういうブログをやっていると、この本を読みながらずっと、
「私がここで書いていることも香西氏が指摘されているような詭弁を弄してはいないだろうか」
と気になって仕方がありませんでした。
香西氏が引用された多くの文章のなかには、「わざと詭弁を弄している」言葉もあれば、自覚なく大変に不愉快な論理を持ち出している文章もあるように思います。
私もこの「無意識に詭弁を弄する」という状況に陥らないよう、注意しないといけないな、と思ってしまいました。
投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL
2010年12月 8日 水曜日
特許庁面接(6)
以前の記事はこちら。
しつこく続くこのシリーズ、第6回となりました。書くほうもそろそろ飽きてきたので、そろそろまとめに入りましょう。
ポイント⑦ 臨機応変に
当然のことですね。事前にあれこれと決めたところで、面接は「審査官」という相手があることです。相手がこちらの思ったレールに乗ってくれないことだってあるわけです。
そういうときに、どこまで臨機応変な対応ができるかは当然のことながら重要です。ましてや、
で書いたように、出願人側で面接をコントロールしようとするなら、どこまで審査官の言葉に、俊敏に応じられるかということは重要です。
とは言うものの。
「臨機応変」にやりなさい、と言われてできるのなら誰も苦労はしないわけです。「臨機応変」にやるにはどうしたらいいのか、をこそ皆知りたいわけですが、どうすれば「臨機応変」にできるか、なんてこと教えようがありません。
というわけで、こんなこと、書いてみたところでどうしようもないことです。
とりあえず、面接における目的は何か、論点のなかでどこを突破しなければならないのか、ここだけは譲れない線はどこなのか、という議論の主眼となるポイントをきっちりと抑えておいて、そこだけは絶対にぶれず、その他のところはできるだけ自由に、ということが大事なのでしょうね。
要は、「ここだけは譲れない」というラインを自分の心のなかできちんと引いておけば、後はそこからずれないようにすればいいわけです。
と言うと簡単そうですが、この辺りがきちんとできるかどうかはセンスです。こういうことを頭において、色々と考えることでセンスは磨かれていくものですので、自分なりに考えてみて下さい。
ポイント⑧ 気楽に構えて
あまり緊張しても仕方がないです。
別に面接の場で全てが決まるわけではないですし、ダメだったら審判するなり、分割出願をするなり、そのほかの手もあります。
また、面接の場ですべてを決めなくても、「そこはまだ考えていなかったところなので、かえってもう一度検討します」と答えてもいいわけです。
要は、
「面接で、一つでもいいから特許を取得するために重要な事項をつかめれば、それでよし」
投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL