特許コラム

2010年12月24日 金曜日

「特許戦略」という言葉の定義(3)

 私自身、ここしばらくの間、ひまがあると「知財戦略」という言葉の意味についてばかり考えています。そのことは、ここ数回のブログを見て戴ければ分かると思います。
 
 本ブログでも何度か言及させて戴いた「御社の特許戦略がダメな理由」(長谷川暁司著 中経出版)においては、
「「戦略」という言葉は戦争用語である。しかし戦略という言葉の一般的な定義となると、素人が簡単に手を出せるようなものではなく、大学の教授あたりの研究テーマとして一冊の本が書けてしまうほどの難しい問題である。」(第148頁)
とあります。
 
本を読んで初めて私は気がついたのですが、確かに、「戦略」は「戦争用語」です。ですから、「知財戦略」や「企業戦略」という言葉を使うとき、「企業活動とは戦いである」ことが前提にあるわけです。ですから、「戦略」という言葉で企業活動を語るのであれば、一番重要になるのは、「戦争の発想」であるように思います。
 
 現代日本にあって、このような「戦いの発想」を持って仕事をしている人は決して多くはないように思います。特許について語るときも、「どうやって相手の力を殺ぐのか」「どうやって相手の攻撃をしのぐのか」という発想からスタートする人は決して多くはありません。しかし、特許の本質というのはそういうものだと思うのです。「戦い」ということは、自分が頑張ることだけではなく、相手を破壊することも含んでいます。
 
 「知財戦略」という言葉を掲げるのであれば、知財というものを「敵が存在する戦いである」と認識し、「どうやって敵の領地を奪うか、敵に領地を奪われないか」という「戦争」の発想で、構想していく、ということが必要であると思います。いや、別に知財に限らず、「企業戦略」という言葉を掲げるのであれば、どんな仕事でも同じことです。
 
 経済雑誌等で「名経営者」と讃えられる「戦略に長けた」経営者の方々の発想は常に、こういった「戦争」の発想のように思います。そういった人たちにとって「知財戦略」なんて「何をいまさら」というレベルの話でしょう。
 
 もちろん、「戦略」という言葉で発想することは、「戦うこと」ばかりではなく、「如何にして無用な戦争を避けるか」ということでもあるように思います。
 本当の「戦争」は、被害をもたらす可能性のあるものです。ですから、「戦略的」に「戦争を回避する」ということも、重要なことなのではないかと思います。
 
 と、こういうことを考えていると、「特許戦略」というものも、非常に難しいものであり、その定義など簡単にできるものではない、と一層強く感じてしまいます。
 そこで私たち弁理士がやるべきことは何か、ということも非常に難しい問題です。

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

2010年12月22日 水曜日

アメリカのこと

 新聞や雑誌を読んでいて、日本の現状批判をしているものを見ることがよくあります。
 そういう話ではすぐに「アメリカと比べて」という話になりがちです。
 
 しかし、アメリカと比べるのは妥当なのでしょうか。
 
 と、えらそうに書き始めましたが、私もアメリカについて、さほど詳しいわけではありません。アメリカへは特許事務所勤務時代、出張で一度行ったきりです。アメリカ文化に興味があるわけでもないし、アメリカの音楽も映画もほとんど興味がありません。
 
 しかし、特許事務所をやっているとアメリカ特許を扱うことがよくあります。その関係でアメリカ人とやりとりをしたり、日本に来た米国の特許弁護士と話をしたり、アメリカの判決を読んだり、という機会があります。
 そういう経験のなかで思うのは、「アメリカと日本は非常に大きく違っているけれど、別にアメリカのほうが進んでいるわけではない」ということです。
 
 よく、「アメリカはこういう制度でやっているから、日本にも同じ制度を」ということを言う人がいますが、日本は根本的に法体系がアメリカと違う国なので、「参考にならない」ということを思います。
 
 何がそんなに? ということですが。
 とりあえず一つだけ言えるのは、英米の法体系は日本の法体系とは根本的に違います。
 と、偉そうに書いたものの、その違いの本質は何か? と聞かれると私もうまく説明できません。今、ウィキペディアを見ると、ローマ法に基づいてヨーロッパ大陸に広がり、それが日本にも伝わった大陸法と、イギリスで全く別個に発展した英米法があって云々という話です。このあたりも非常に興味深いのですが、私自身説明できるほど詳しくありません。
 
 実際、特許の仕事をしていても、欧州特許の仕事をやると根本的な法律の考えが日本と同じだなと感じるのですが、米国をやると日本と根本的に違う、と感じます。
 2007年頃の米国特許の規則改正にまつわる一連の出来事(何それ? という方のために、いずれ近いうちに何があったか本ブログで簡単に説明します)などは、日本では絶対に起こり得ないことでしょう。あの件等は、「日本と米国は根本的に違う」ということを思い知らされた事件でした。
 
やはり、成分法と判例法との違いは、大きいですよ。アメリカの特許制度があんなに非合理的に見えるのは、判例法のせいだという気がしますし、アメリカ人からすると、日本の法制度は融通がきかないものに見えるのだろうと思います。
 
昔、米国の弁理士と話をしているときに、
「この前米国特許法がこんな風に改正されたけれど、どう考えたらいいのか?」
と質問したら、
「判例が出ないとはっきりしたことは言えない」
ということを言われたこともあります。
 
 とりあえず、アメリカ特許を扱う場合には、「日本とアメリカは全然違う」ということを頭に入れることが何より大切ではないか、と思います。
 そして根本的な法体系が違うのだから、アメリカの制度を日本に取り入れるのは難しい場合もある、ということも考えておいたほうがよいのではないでしょうか。

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

2010年12月21日 火曜日

「特許戦略」という言葉の定義(2)

 昨日のブログで「特許戦略」の定義について書きました。
 が、色々書いたのに、自分が思う「特許戦略」という定義を一切書いていません。
 それはなぜか、ということを今日は書いてみたいと思います。
 
 「特許戦略」の定義を全世界共通の完全な形で行うことは意味がないと私は思います。会社ごとでそれぞれに違った自分の会社オリジナルの「定義」を持っていることが必要なのではないか、と思います。戦略に強い会社とは、このようなオリジナルの「定義」を持っている会社、と言えるかもしれません。
 
 私も相談戴ければ「貴社はこのような戦略で行えばよいのではないですか」と、会社に合った定義付けを行うお手伝いはできる気がします。しかし、どこの会社でも適用できるような、一般的な定義を考えてもあまり意味はないと思います。
 
 特許というものの根本的なところとして
「模倣商品を防ぐことで商品単価を維持し、利益の拡大を図ること」
ということがあるので、それが一つの「定義」となり得るでしょう。とはいえ、漠然としていて、これだけでは具体化するための計画をどうやって立てていいか考えにくいように思います。
 
 戦略を実行に移していくには、より分かりやすく具体的な方針を立てることが必要になることもあるでしょう。業界事情、会社全体の事業方針等の要素が関係する場合もあるでしょう。
 そのような場合のより具体的な「定義」は、各社で決めていかなければならないのであり、それが「経営方針」の一部と言えるのかもしれません。
 
 学校で習った勉強の延長に立っていると、「定義」というのは何か絶対的なものがあって、それを誰かが教えてくれる、と思っている方が多いと思います。
 しかし、ビジネスにおいては重要な言葉の「定義」を誰かが教えてくれることなどあり得ないと思います。むしろ、誰に教えられたわけでもない自社オリジナルの、強固な「定義」を持つことで特許戦略の方向は明確化されていき、企業が強力な力を持つということなのかもしれません。
 
 昨日のブログでは「特許戦略」の定義の共有が重要、と書きました。これは同一組織内においてこの「オリジナルの定義」を共有していくことが重要というつもりで書いています。
 
 そのあたりが、昨日のブログでは「定義」が重要と書きつつ、実際に私が思う定義を書かなかった理由です。
 是非、皆さん、オリジナルの定義を考えてみて下さい。

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

2010年12月20日 月曜日

「特許戦略」という言葉の定義

 しつこく「論理性」ということを書き続けてきたこのブログ。
 今回は「定義」ということについて考えてみましょう。
 
 「文系の論理」ということについて、本ブログでは絶対的な前提に基づいて論理を組み立てていくもの、というように書いてきました。
 
 このような考え方においては、「前提」がなにより重要になるわけです。法律の場合は法律の条文がこの「前提」になり、法律で規定された事項自体は「前提」として崩れないものとなります。
 しかし、それ以外のこと、例えば「特許戦略」とか「企業統治」とか「投資戦略」とかそういった話になってくると、法律の話のように「前提」が何なのか、ということがはっきりしません。
 
 でも、そういう「前提」がないと話が進まないのが文系的な議論です。ですから、「特許戦略」「企業統治」とか、その手のことについて考えるときには、最初の「定義」をどこまできちんとできるかがすべて、と言っても過言でないように思います。
 しかし、そこのところをきちんとして進められた議論は極めて少ないように思います。
 そのせいで、「特許戦略」はうまくいきにくく、その実態もぼやけたものになっているように思います。
 
 「特許戦略」のようなことを論理的に組み上げて行っていくには、色々な「定義」を最初に行うことによって、その計画に参加する人の考えを統一するという作業が必要なのかもしれません。
 
 言葉というのは怖いものですよ。「言葉」を与えてしまいさえすれば、はっきりしないものであっても、実態があるように錯覚してしまって、議論してしまったことになるものです。「特許戦略」と口にしてしまえば、「特許戦略」が何なのか、誰も理解していなくてもそれらしい話をした気分になってしまうものです。
 
 「特許戦略」という言葉の意味なんて、誰もはっきりと定義していないわけです。個人個人では定義した人が多くいるように思いますが、統一的な定義なんて存在しないのです。
 その状態で「特許戦略」について話し合うことで、ちゃんとした結論が生まれにくくなることも起こり得ると思います。
 
 「特許戦略」に基づいて社内の知財行政を行おうと思っているけれど、なかなか議論が前に進まない、と思っておられる方もいるかもしれません。
 そう思っておられる方がおられれば、最初に「特許戦略とは何か」という定義を行って、その内容を皆で共有することから始めればよいのかもしれません。

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

2010年12月16日 木曜日

企業知財と特許事務所のつきあい


以前、
というブログを書きましたが、この内容に関連したことです。
 
 ずいぶん昔のことになりますが、講習会のついた知財関連の交流会に参加したとき、講習会の講師の方が特許事務所の弁理士をこき下ろしているのを聞いたことがあります。
 
 具体的には「レベルが低い」「知識が少ない」「ちゃんとやってくれない」といったようなことをおっしゃっていたような気がします。その講師の方は、某企業の特許部に勤めておられる方で、弁理士の資格もお持ちの方でした。
 
 そんなに固い場でもなかったので、社内飲み会の延長のような気持ちでつい言ってしまったのだろうと思います。私も企業知財に勤めている頃だったら、軽く聞き流していた気がします。
 が、その頃、私は特許事務所で勤めていた頃だったので、聞き流すことはできませんでした。
 
 とりあえず、「講師の先生」という立場の方が、事務所の弁理士の人も大勢いる前でそんなことを言うのは、趣味のいいこととはいえません。事務所からすれば、企業知財は「お客様」ですから、反論があってもなかなか言えないですからね。言った内容が同じであっても、「特許事務所の役割や理想」というまじめな議論につなげる形でおっしゃったのであれば、悪いことではなかったと思うのですが。
 
 提言ではない単純な特許事務所の悪口を言われても、「それなら知財の仕事は事務所に出さずすべて社内でやればどうですか?」とか、「弁理士なんですから自分で特許事務所を開いたらどうですか? そんなに強く批判されるのなら、立派な事務所を開けるんでしょう?」といった、悪趣味な嫌味しか言えません。そんなことを言っても仕方がないので、黙ってしまうしかありません。
一般的なこととしてみても、深い議論に繋がらない単なる悪口を講習会の講師が言うのは、建設的ではないでしょう。
 
 と、ここまで批判的に書いたものの、その一方でその方がおっしゃることも分からないではないのです。
 私が企業知財に勤めていた頃の別の話をしましょうか。
 
 当時、私が勤めていた会社が懇意にしていた特許事務所があり、そこには何人かの弁理士の先生がおられました。
 
 その事務所に勤務されている弁理士の先生(仮にA先生としましょう)のことを、会社の特許部の人(Bさんとしましょう)が非常に嫌っていました。いつも「あの人の仕事はいい加減だ。手抜きがひどい」と言っていました。私は、自分が依頼してA先生にやってもらった仕事について、ひどいと思ったことがなかったので、「そうかなぁ」という気持ちでBさんの話を聞いていました。
 
 あるとき、Bさんが「この前A先生にやってもらった異議申立(当時は特許にも異議申立制度がありました)が、こんな書面だったんですけど、どう思いますか?」とA先生の書いた異議申立書を見せてくれたことがありました。
 それを見て、私もかなり驚きました。確かにBさんが言うとおり、手抜きがひどくいい加減な書面でした。私が頼んだときに上がってくる書面とは質が大きく違っていました。
 
 結局、A先生はかなり人を見て仕事をしていたのではないかと思います。その件があったとき、私は弁理士試験に合格した後でしたから、私に対しては気を遣っていた、ということなのでしょう。
 しかし、Bさんの仕事の頼み方が悪かった可能性もあります。A先生にそのあたりを突っ込んで聞いてみたら、「それは仕方がないな」と思うような事実が出てくるのかもしれません。
 
 いずれにしても、企業知財と特許事務所の弁理士の付き合いは簡単ではない、ということです。それがうまくできるかどうかというのは、企業知財の方にとっても特許事務所の人間にとっても、仕事の多くの部分を占める難しい問題であるように思います。
 この辺も、機会があれば掘り下げてみたいと思います。

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

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