特許コラム
2011年1月 7日 金曜日
選択発明と利用関係
前回、利用発明についてお話しました。今回はその続きです。
ここで理解して戴きたいことは、
『特許を取ったから、その発明を自由に実施できるわけではない』
ということでした。
そして、化学分野ではもう一つ厄介な問題として、「選択発明」というものがあります。
それが何か、言葉で説明しても伝わらないと思うので、具体例でお話しましょうか。
例として、脂肪族のポリアミド樹脂を考えてみましょう。
(例)
「炭素数4~10の直鎖脂肪族ジカルボン酸(A)と炭素数4~10の直鎖脂肪族ジアミン(B)とを重縮合反応させることによって得られた樹脂」
という特許をAさんが持っていたとしましょう。
そして、それより後に、Bさんが、
「炭素数6の直鎖脂肪族ジカルボン酸(A)と炭素数6の直鎖脂肪族ジアミン(B)とを重縮合反応させることによって得られた樹脂」
という発明をしたときに、これは特許になるでしょうか?
要するに、最初の出願では「炭素数4~10」とあったものを「炭素数6」としているだけで、他は全て同じです。
特許に慣れていない人は「それは特許にならないだろう」と判断しがちですが、そうではありません。Bさんの発明が特許になる可能性はあります。
これが、選択発明です。
要するに、先の出願よりもより狭い範囲で特許になる場合があるのです。どういう場合に特許になるかを話し始めると長くなりますので、ここでは省略します。
そうなったら、権利関係はどうなるのか? ということですが。
前の「利用関係について」の説明を思い出して下さい。特許を取ったからといって、その発明を実施できるわけではない、特許はその範囲で他の人を排除できる権利だ、と申し上げました。
このことを考慮すれば、その「炭素数6」のところについては、AさんもBさんも両方実施できないことになります(この辺りは色々説があるところではありますが)。
納得行かないですか? 変な気がしますか? しかし、今の特許法はこのような前提で運用されているので、納得行かないとしても、受け入れて戴くしかありません。
ですから、出願時もこのことを頭において進めていただきたいのです。
なんだか、厄介な問題をテーマに選んだな、という気がしてきました。このことは、重金属固定化処理剤事件(東ソーvsミヨシ油脂の事件ですが、今後はこのように書かせて戴きます)に関連する事項になります。
今後、この事件について色々書きたいので、それを読んで戴く際、昨日と今日のブログの内容を思い返して戴ければ、より分かりやすくなるのではないか、と思います。
投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL
2011年1月 6日 木曜日
特許法における「利用」
今日は珍しく、特許法のお勉強の話です。
というのも。
私が特許の仕事に移ったばかりの頃、私の教育係であった先輩が、
「この発明の「利用」のところは、営業の人や研究の人に何回説明してもわかってもらえない。誤解している人が非常に多い」
とおっしゃっていました。
そして、私も実際に仕事をしていくうちに、「確かにそのとおりだ」と思う局面が非常に多くありました。結局、十五年前と今とではここのところの認知度はあまり変わっていないと思います。
だからといって、なぜ急にここのところをブログで書こうと思ったか、というと、年末年始に東ソーvsミヨシ油脂の判決文を読んでいるとここのところが関係している、と思ったからです。
そこの詳しい話は、今後のブログに譲るとして。まずは、利用の話です。
まず、根本的にある誤解として、
「特許を取れば、自分はその発明を自由に実施できる」
という誤解があります。本当にここを誤解している人が非常に多いです。
いいですか。ここは声を大にしていいますが、これは間違いです。特許を取ったということは、その発明を実施できるということではありません。
特許を取ったということは、その発明を「他の人が実施できない」という意味です。特許を取った人が実施していいかどうかは別の問題です。
納得行かない人も多いでしょう。
でも、例を挙げて説明すると案外簡単なことなのです。
例えば、世の中に「腕時計」というものが全く存在していなかったときに、Aさんが「腕時計」を発明して特許を取ったとします。そして、そのAさんの腕時計をみたBさんが日付表示機能のついた腕時計を発明したとしましょう。
その日付表示機能のついた腕時計は、それまで世の中になかったものなら、Bさんは特許を取ることができます。
でも、Bさんが「日付表示機能つきの腕時計」を製造したら、腕時計を作ったのだからAさんの特許を侵害したことになるでしょう? このような場合には、自分で特許をとった発明でも実施することはできなくなります。これを法律用語で「利用」といいます。
じゃあBさんは特許を取った意味がないじゃないか、とおっしゃるかもしれません。しかし、「日付表示機能つきの腕時計」はAさんも製造することはできないのです。
だから、Aさんが腕時計に日付表示機能をつけたい、と思ったら、Bさんと交渉をしなければならなくなる、ということです。Bさんが特許を取ったメリットはそこにあるのです。
化学の分野では、そこに「選択発明」という概念が加わることで、非常に複雑な状況が生まれやすくなります。
と書いたところで、長くなりましたので、選択発明についてはまた明日。
投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL
2011年1月 5日 水曜日
審査請求料金の引き下げの件
以前の記事で、審査請求料引き下げが検討されている、ということをお話しました。
先日、その内容について、日刊工業新聞に記事が出ていたので、取り上げさせて戴きます。
(リンク切れの場合はご了承願います)
「特許庁は特許の審査請求手数料を25%引き下げる方向で調整に入った。2011年夏にも政令を改正し実施する。リーマン・ショック後の世界的な景気後退によって出願件数が急速に減っていることから、料金の引き下げにより企業などの負担を軽減し、研究開発を後押しする。出願料や特許料(維持手数料)については改定を見送る。
審査請求手数料は、出願した特許の審査入りにあたり支払う手数料。特許関連の料金の中では最も高額で、平均1件20万円程度とされる。引き下げによって5万円程度の負担減となる。
特許庁は02年の料金改定で同手数料をほぼ倍に引き上げた。特許特別会計の収入が特許料中心になっていることから、特許料下げと請求手数料上げを同時に実施することでバランスを改善するのが狙いだった。」(2011年1月1日 日刊工業新聞)
審査請求手数料は、出願した特許の審査入りにあたり支払う手数料。特許関連の料金の中では最も高額で、平均1件20万円程度とされる。引き下げによって5万円程度の負担減となる。
特許庁は02年の料金改定で同手数料をほぼ倍に引き上げた。特許特別会計の収入が特許料中心になっていることから、特許料下げと請求手数料上げを同時に実施することでバランスを改善するのが狙いだった。」(2011年1月1日 日刊工業新聞)
というわけで、まだ具体的な内容の発表とはいきませんが、今年の夏ごろ、25%引き下げということでは概要が明らかになったといえます。
今年じゅうに審査請求期限が来る出願がある方は、ご注意下さい。できるだけ、改正の概要が明らかになり、審査請求手数料が下がってから手続きをするようにしたほうが得だと思われます。
という記事を正月に書いていたら、1月4日に日経新聞にも同じような内容で記事が出ていましたね。こちらによると、中小企業の減免措置の基準が甘くなる、ということも書かれていました。こちらもご留意下さい。いずれにしても、正式な内容が発表されれば、本ブログでも取り上げさせて戴きます。
それから、裁判所HP中に東ソーvsミヨシ油脂の事件の判決文が公開されましたね。
年末年始の休み中にぱらぱらと目を通していたのですが、本ブログでも色々と取り上げてみたいと思っています。
が、きちんと取り上げようとすると、かなりのボリュームが必要となること、更に、「結論からの批評」ではなく、もっと建設的な話をしたいと思っているので、かなりの回数を要することになると思います。
現在、そこのところを準備中ですので、ある程度内容がまとまったら、話を始めたいと思っています。
投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL
2011年1月 4日 火曜日
あけましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いします。本日より、弊所の勤務が始まります。気分も新たに頑張っていきたいと思っておりますので、宜しくお願いします。
さて、新年ということもありますので、今年の知財業界のことなどを。
ここ数年の知財業界は激しく厳しい変革の時期であるように思います。
特許出願件数の減少があり、一方では「知財戦略」という言葉が叫ばれています。そんななかで、今までの知財のあり方から別の形へ変化してきているような気がします。
しかし。
知財を取り巻く環境は変化してきていて、今後の知的財産について語られる機会は増えているのに、弁理士業界は特に変化がなくて、「日本の知的財産をどうすべきか」という広い視野からの提言や、意見の発信がほとんどなされていないような気がします。
これでいいのか? ということを最近非常に思います。今、弁理士同士で話していてもこういうことに話題が向かうことが非常に少ないです(決してゼロではないですが)。
こういうところ、理系出身者が多い弁理士業界の宿命ということなのでしょうか。政治・経済の変化を見ながら、知的財産を日本社会のどこに位置づけて、どのような活動をしていくべきなのか、等ということを真剣に考えている弁理士は少ないように思います。
弁理士の普段の仕事は、技術者と話をしてそれに基づいて明細書を作成する、ということがほとんどですから、経済・社会についてアンテナを張り巡らす習慣が付きにくい、ということもあるかもしれません。事実、過去の私もそういう人間でしたから。
こういうことを真剣に考える人が少ない、という現状は特許業界にとって憂慮すべき事態であるように思います。
私だって、「誰かそういうことを考えてくれ~」という気持ちがありますが、同時に私も弁理士である以上は、「私はどう思うのか」という考えをまとめていかなければならない、とも思います。
正直なところ、私自身も「これから日本の知的財産はどうあるべきなのか」等という難しい問題について、立派な意見を提案できるなどとは思っていません。しかし、「そういうことに誰か考えて欲しい」と思うのなら、最初に自分が何か意見を言わなければならないのかなぁ、などと思ったりもします。
というわけで、今年のブログではそういったことについても、私が思っていることなども書いていければ、と思っています。
書き始めたときは、まさかこんな結論になるとは思っていなかった今年1回目のブログです。
とはいえ、こういうことを書きつつ、去年と同じように自分なりに自分が思ったことを書いていく、ということになると思います。
今年もお付き合いいただければ、これほど嬉しいことはありません。
投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL
2010年12月27日 月曜日
今年1年、ありがとうございました
さて、今年も残り少なくなってきました。
弊所の仕事は明日までとなっていますが、本ブログは本日をもって今年の最後の更新とさせて戴きます。
本ブログを開始したのが今年5月なので、ブログを始めてから感じたことについて少し書かせて戴こうかと思います。
始めたのは5月とはいえ、当初はあまりまじめに更新しておらず、自分自身としてもそれほど身が入っていませんでした。しかし、10月頃に
「ちょっとまじめに更新してみるか」
と思い立ち、できるだけ多く更新(毎日更新と決めるとプレッシャーに感じてしまうので)を目標にして、色々と書き始めました。
書き始めると案外楽しくなってきて、結局は毎日更新に近い形で更新できたので、こういう形でよかった、と今は思っています。
えらいもので、更新回数を増やすとアクセス数も増加していって、それを通じて色々なことが分かって、大変勉強になりました。そういう意味で、ブログをやって本当によかった、と思っています。
何が勉強になったかというと、アクセス解析です。
アクセス解析を見ていると、どのようなキーワードで当ブログにたどり着いたのか、どのようなページの閲覧数が多いのか、等が分かります。
それを見ていると、
「今、どんなことを知りたがっている人が多いのか」
「今、みんな何に困っているのか」
ということが見えてくるような気がします。
というわけで、そういった皆さんの要望にお応えできるよう、来年も頑張りすぎない程度に、マイペースで更新していきたいと思います。お暇な際にはお立ち寄り下さい。
それではみなさん、よいお年をお迎え下さい。
投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL