特許コラム
2011年2月18日 金曜日
特許庁、特許ライセンスの新制度創設へ
「経済産業省・特許庁は16日に開いた産業構造審議会(経済産業相の諮問機関)の知的財産政策部会(野間口有部会長=産業技術総合研究所理事長)で、特許のライセンスを受けた事業を保護する新制度の創設について了解を得た。今国会で特許法の改正を目指す。また特許審査手数料の引き下げや、中小・ベンチャー企業に対する減免制度の拡充も確認した。
特許権を権利者が第三者に売却した場合、特許の通常実施権のライセンスを受けている企業は、新たな権利者から差し止め請求を受ける危険性がある。現行制度でこれに対抗することは実務上難しいため、新たに「当然対抗制度」を導入する。
具体的には従来のライセンスの存在を立証すれば、新たな特許権者に対抗できるようにする。これにより企業などの事業の安定性、継続性がおびやかされることがなくなるという。」(2011年2月17日 日刊工業新聞)
特許権を権利者が第三者に売却した場合、特許の通常実施権のライセンスを受けている企業は、新たな権利者から差し止め請求を受ける危険性がある。現行制度でこれに対抗することは実務上難しいため、新たに「当然対抗制度」を導入する。
具体的には従来のライセンスの存在を立証すれば、新たな特許権者に対抗できるようにする。これにより企業などの事業の安定性、継続性がおびやかされることがなくなるという。」(2011年2月17日 日刊工業新聞)
ということで、法改正情報です。
特許のライセンスは契約ですから、色々と揉め事の起こりやすいところです。
契約を作る時に、「特許権者が倒産した場合どうなるんだ」とか「特許権者が特許権を売却したときどうなるんだ」とか、考えるべきことはたくさんあります。
そういう意味では、この改正で追加されるらしき制度は、認めてしかるべきもの、という気がするので、妥当な改正内容といえるのではないでしょうか。
読んでいると「従来のライセンスの存在を立証すれば」という条件が入っているところに注意です。
基本的には契約書をきちんと交わしておけば問題がないということなのでしょう。また、特許庁への登録をするのも一つの手でしょう。
今はライセンスというと、きちんと契約書を交わすのが当然になっている、とは思いますが、そこをいい加減にしていて、口約束で実施させてもらっていた、ということになれば、ここの条項での保護が受けられなくなることがあります。
きちんと契約書を作成しておくことが重要となります。
また、特許審査手数料の引き下げや、中小・ベンチャー企業に対する減免制度の拡充については、色々な人から「どうなっていますか」と聞かれるのですが、まだ内容は公表されていないということですね。今回の改正で、中小・ベンチャーの方にとって非常に興味があるのはここのところだ、と思いますが、私としても少しでも使いやすい特許制度になっていればいいな、と思います。
それから、特許庁の無料先行文献調査の制度は今年度で終了なんですね。こちらの制度は非常にいい制度だと思っていたので、終わるのは残念です。予算の問題もあるでしょうし、止むを得ないのかもしれませんが、もしも可能であるなら、また復活させて欲しいなと思います。
投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL
2011年2月16日 水曜日
仕事の楽しみ
私が特許の仕事をするようになって、十五年くらいになります。
で、それくらい経った最近になって、
「特許の仕事が楽しい」
と感じることが、時々はあるようになりました。本当に「たまに」ですが。
言い換えると、最近になるまで本当の意味で「特許の仕事が楽しい」と感じたことは、ほぼなかったということです。
それでも、企業時代、研究から知財に異動したばかりの頃は楽しいと感じることも結構ありました。しかし、それは、「今まで知らなかった世界」に入った物珍しさや、それまで知らなかった知識が増えていく楽しさだったように思います。
それに、下っ端で責任もあまりない状態ですから、プレッシャーもほとんどなく、気ままに仕事ができるという有難さもありました。
面倒くさいことになると上司が出てきて決めてくれたり、責任を取ったりしてくれる、という甘えられる状況でもありました。
その頃の「楽しい」というのは、本当の意味で辛いことを免除されているから「楽しかった」だけで、真の意味での「楽しい」という状態ではなかった、と今振り返ると、思います。当時の自分は、それなりに頑張っているつもりだったし、「辛い」こともたくさんあると思っていたのですが。
しかし、その後、弁理士試験に合格し、特許事務所に転職した辺りから真に「辛い」時期が始まりました。
私の場合は、経験者で弁理士資格保有での転職でしたので、特許事務所では最初からある程度上のポジションからのスタートでした。そこで、「責任」を持って仕事をするという立場に初めてなったわけです。
「責任」を背負って仕事をするのは、辛いことでした。弁理士は「代理人」ですから、自分の失敗でクライアントに迷惑をかけてはいけない、と思うと辛いと感じるばかりで、「楽しい」などと思うことはありませんでした。
要するに「余裕」がなかったわけです。自分の能力にも自信がなく、日々の仕事で失敗しないように、できるだけのことをやらなければ、という気持ちが強すぎて、本当に辛い日々でした。
それに特許事務所という組織に属していると、組織の中で自分の役割を果たす、ということについて、プレッシャーも感じていました。
で、最近になってなぜ「楽しい」と感じる機会が「ごくたまに」生まれるようになったのだろう、と考えると、結局、ちょっとは余裕ができてきたということかもしれません。何となく、昔に比べて肩の力が抜けてきた、という気もします。
それから、そんな感じで積み重ねた十五年間の経験のおかげで、相談されたことに対して少しはマシなアドバイスができるようになってきたような気もします。
そして、「自分のアドバイスが少しは誰かの役に立ったのかもしれない」と思う瞬間があると、それは大変「楽しい」ことです。
なんで急にこんなことを書いたのかというと、ブログのアクセス解析を見ていると、「特許の仕事」というものに迷いを感じている方というのは多いのだな、という気がしたからです。
私だって、この十五年間、ずっと迷うことばかりでした。これまでの知財経験のなかで、純粋に「仕事が楽しい」と感じられるような瞬間なんて、ほとんどありませんでした。だから、今迷っている方の気持ちも分からないことはないのです。
でもそういう中で耐えることで、少しずつ自分の居場所ができてきて、本当に時たまとはいえ、「楽しい」と感じる瞬間ができてきた、ということです。
今「辛い」と感じておられる方が、耐えて頑張っているうちに私と同じように将来「楽しいときも少しはある」と思えるようになるのかどうかは分かりません。しかし、少なくとも私はこうだった、と書くことで、今「辛い」方のちょっとした励みにでもなれば、と思ってこういうことを書きました。
それと、少しだけとはいえ「仕事が楽しい」と感じられるようになってきたことが嬉しかったので、それを書き留めておこう、という「日記感覚」も半分です。
願わくは、少しでも「仕事が楽しい」と感じられるような状態が長く続けばいいな、と思っています。
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2011年2月14日 月曜日
「ソーシャル・ネットワーク」(映画)
三連休に「ソーシャル・ネットワーク」を観ました。今日はそのお話を。ネタバレありなので、そのつもりでお願いします。
私自身、フェイスブックって何? という状況だし、そもそもIT関連のことには疎くて、ネットベンチャーのことも何も知らない人間なので、よく分からないこと多かったのですが、雰囲気を楽しんだというところでしょうか。
この映画は、フェイスブックという会社の創業時代の話などをモデルにしているそうです。とはいえ、何年もの期間で現実に起こったことを2時間の映画に再現することは不可能ですし、映画である以上、「面白い話」にするための脚色がたくさんあるでしょう。ですから、私は実話を脚色してつくった「フィクション」として楽しみました。
ストーリーは、主人公がフェイスブックを立ち上げて、それを事業として軌道に乗せていくなかで、色々な人との軋轢があり、裁判を起こされたりもして……という話です。フェイスブックって、日本ではメジャーではないですが、アメリカでは相当メジャーなもののようですね。
まあ私はソーシャルネットワークサービスを全く利用していないので、どっちみちよく分かりませんが。
で、映画では、「知的財産」という言葉もでてきて、「アイディアをパクった」ということで怒って裁判を起こす人などもいるわけです。そういうところについて、色々考えてしまいました。
主人公を訴えたボート部の兄弟が
「最初にアイディアを考えたのは自分たちだ」
というのは、(現実の局面がどうだったのか知りませんが、映画のストーリー上は)事実だったかもしれません。
でも、その後で自分たちはアイディアを具現化するための仕事を何もせずに、主人公にまかせっきりに近い状態だったわけです。アイディアを現実のものとする能力もなければ、そのための努力もしていない。そして、自分たちの思い通りに動かなかった男のことを恨んで裁判を起こすという。
そのアイディアというのも、5年も6年も苦労して発見したというものでもなく、ちょっとしたほんとうの「アイディア」という程度のものであって。見ている範囲では、「最初のアイディアを思いついた人よりも、それを実際のものとするための作業を行った人のほうがずっと大変だったんじゃないのか?」と思うようなものでした。
なのに、後で事業が成功すれば、「アイディアは自分が思いついた」といって、訴訟を起こすという。
まあ、主人公もしょっちゅう人を騙したり陥れたりしているので、全く「善人」ではないわけですが、アメリカのネットビジネスなんて、(私の想像では)最初から「騙し騙され」の生き馬の目を抜く世界じゃないんでしょうか。
そんな世界で「騙された」と怒るのもあまり共感できないというか。
どちらかというと、裁判というのも「騙された怒り」というよりは、知人がものすごい金持ちになったから、たかって裁判で金を巻き上げようとしただけじゃないか、と邪推してしまいます。
でも、知的財産という制度は、突き詰めればこういう「ボート部の兄弟」を「正しい」とする制度なんですよね。この映画でも現実の世界でもこの「ボート部の兄弟」は和解金として相当な額を受け取ったわけですし。
ビジネスの成功はアイディアだけで達成されるものではなくて、それを現実のものとするための大きな努力があってこそのものです。アイディアは良かったけれど、それを実行に移すビジネスが下手だったせいでうまくいかなかった事例なんて、山ほどあるはずです。
でも、「知的財産」においては、「成功するための努力」を無視して、「優れたアイディア」が成功の全ての源、という考えを前提にしている面はあります。そのせいで、「知財保護なんてしないほうがいい」、という極論に一定の説得力が生まれるように思います。
まあ、私が普段仕事をしている「化学特許」の世界はこういう「生き馬の目を抜く」世界ではなく、もっと地味な世界なので、この話のような出来事が当てはまることはほぼないわけですが。
でも、そういう色々なことを考えたという意味で、面白い映画でした。観ておられない方もぜひ。
投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL
2011年2月10日 木曜日
特許の国際出願件数
今朝の日経に特許の国際出願件数についての記事が出ていましたね。
「世界知的所有権機関(WIPO)が9日に発表した2010年の特許の国際出願件数(速報値)で、2154件を出願したパナソニックが2年連続で首位となった。・・・(中略)・・・一方、「知的財産大国」を目指す中国勢が猛追。中国全体の出願件数は前年比56.2%増と大幅に伸び、2位と4位を中国の通信機器大手が占めた・・・(以下略)」(2011年2月10日日本経済新聞)
もうこういう報道の仕方は止めたらいいのに、と私は思います。
正直なところ、特許出願件数を、オリンピックのメダル数を競うかの如く、順位付けすることに何の意味があるというのでしょうか。ついでに言うなら、この統計はPCTの件数ですから、パリルートで出願しているものは反映されません。パリルートでの海外出願が多い会社は絶対にランキングに入らないことになります。
特許出願数なんて、金さえかければいくらでも数を増やすことができるわけですから、それが技術力のみを反映するものでないことは明らかだと思います(まあ、無関係とまでは言いませんが)。
パナソニックだって、別に首位を目指して首位になったわけでなく、必要なものだけを出願していたら、偶然首位になっただけ、ということでしょう。
今年トヨタがベスト10から消えたということだそうですが、「だからトヨタの技術力が低下した」という意味では全くないと思います。
素晴らしい技術についての1件の特許は、つまらない特許10000件よりも価値が高いものです。特許の価値は数ではありません。
でも、新聞ではすぐに件数に関する報道になってしまいます。
でも、新聞ではすぐに件数に関する報道になってしまいます。
会社の知財行政では、
「特許出願数を増やすべきと誰かが言い始める
→件数は増やしたけど中身のない特許が増える
→コストが無駄、と誰かが言い始める
→出願を絞り込んで質の高いものだけを出願しようという誰かが言い始める
→出願件数が減少する
→特許出願数を増やすべきという主張を・・・(以下同じ)」
でサイクルが回りがち、と私は個人的に思っています。
「出願件数を増やそう」と言って、社内で増やすための運動をやることが間違っているとは言いません。そうすることで「技術が埋もれてしまう」ケースは減ります。しかし、件数だけを目標にした運動は長続きしないですし、会社にとってプラスにはなりにくくなります。発明者にかかる負荷も大きいですから、かえって研究開発が進まなくなる場合もあります。
「××という事業目標を達成するには、この分野での特許出願を増やすことが絶対に必要だ。だから、この分野に関してはたくさん出願しなければならない」
といった、明確なビジョンのなかで出願件数を増やすのであればいいのですが、
「何か知らないけど、特許出願件数が多いのは絶対的な善だから増やそう」
という考えで出願件数を増やしても、会社にとって良いことは何もないと思います。
投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL
2011年2月 9日 水曜日
弁理士の持つ技術知識
最近、ブログを休みがちの八木です。仕事が忙しくて、ブログを書く時間を取りにくい状態が続いています。
しかし、この先ずっとこういう感じだと、ウチと何の取引もない人でもブログの更新状況を見れば仕事の忙しさの度合いが分かる、ということになってしまうわけですね。それは如何なものか、という気がしますが、仕方ないですね。これぞ個人事業主らしさということで。
そんなことはさておき。
最近、今まであまり扱ったことのない技術分野の仕事が何件か続けてありました。それも最近忙しい理由の一つです。なにしろ知識が少ない分野の仕事であると、技術分野の勉強から始めないといけないので、「慣れた分野の出願」よりもずいぶん手間がかかってしまいます。
しかし、大変な反面、初めてお聞きする話に「なるほど」と感心することがよくあります。
感心して、仕事を進めるためにその件についてネットで調べてみると、その件に関する情報はいくらでもでてきて、
「ああ、このことは私が知らなかっただけで、業界の人にとっては当たり前のことなのか」
と思うわけです。
まあ、世の中に存在する技術はとてつもなく多いわけですから、その全てをカバーすることは不可能なので、誰でも知っていることと知らないことがあるのは当然です。
最近の技術というのは、本当に細分化しているので、研究者も自分の分野のことは知っているけれど、それ以外のことは知らない、という状況になっている場合が多いのではないかという気がします。
偉そうに言っていますが、私だって研究をやっている頃、ポリエステル樹脂のことはかなり細かいことまで知っていても、それ以外の樹脂のことは何も知らない、という感じでした。研究やっているとそんなものだ、と思います。
しかし、弁理士を長くやっていると、技術知識の広がり方が変わってきます。
色々な分野について知識がありますが、そのほとんどは浅い知識です。そして、本を読んだり、ネットで調べ物をするときにも、「浅い」知識を「たくさん」集めようとします。
その結果、今の私の頭の中にある技術知識というのは、「あっちゃこっちゃ」でまとまりのない雑多なものです。そういう意味では、研究をずっと続けてこられた方とは違った形の知識の広がりをしている、という気がします。
そういう知識の集め方が好きな人間だから、弁理士になったのかなと最近は思います。独立して益々その傾向は高まっている気がするので、これからも雑多な知識を集めていきたいと思っています。
なんか、取り留めのない話になってしまいました。最近のばたばたの中で考えた雑感でした。オチがないのも忙しいせい、ということで。
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