特許コラム
2013年5月11日 土曜日
特許部勤務時代の思い出
というわけで今回は、企業知財勤務時代のことです。
あるとき、会社の特許部のなかで担当替えがあって、私は新たな事業部を担当することになりました。
その事業部について私は、「特許部担当者」として担当したことはなかったのですが、「研究者時代に働いていた事業部」でした(私は、会社に入って三年半ほどは研究所で働いていました)。当然、「事業部担当者」として現れる人は、私が研究者だった頃から知っている人ばかりです。
これほどやりにくいことはありませんでした。
技術の内容はよく知っていることばかりですから、技術の説明はほとんど要りません。出願についても明細書案を読めば、すぐ理解できますし、他社特許対策で他社特許を読んでも何が問題なのか、説明を受けなくても分かります。
このために、「お互いに説明が省けていいじゃないか」とおっしゃるかもしれません。
しかし、これがそうでもないのです。
「特許部担当者」と「発明者」の間のちょうどいい距離感は仕事をする上では重要になります。
ところが、「研究者」としてお互いに知り合いであると、この「適度な距離感」をうまく作れないのです。特許部と事業部との間の確認作業をしながら進めていくところでも、私が知っているせいでその「確認」がおろそかになってしまう面もありました。
研究の方は「(特許部担当者とはいえもともと研究していたんだから)こんなこといちいち説明しなくても分かるだろう」という言い方をしてくるし、こちら側が「もう別の部署の人間だから」という考えのもとで、距離を取ろうとするとなんだか変な空気が流れます。
かといって、こちらが距離を縮めて技術のことまで突っ込んで話しても、逆に警戒されてしまいます。
更に問題なのは、私が特許について何か言っても、「本当に正しいのか?」という疑惑の目を向けられるということです。数年前まで研究にいた人間で、そのときの悪行(?)もばれているので「ありがたみがない」と言いましょうか。
そのせいで、本来の「いいバランス」がうまく取れず、非常にぎこちなくなっていた、と記憶します。
特許部担当者として初めて行ったときに誰も知り合いがいないくらいの部署のほうが、かえって仕事はやりやすく、お互いの関係もスムーズに築けた、と思います。
さらに問題だったのは、その担当者替えは、私が会社を辞めると決まった後のことだったので、数回訪問しただけで、半年もたたずに会社を辞めてしまったことかもしれません。
投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL