特許コラム
2011年9月25日 日曜日
会社のOB会
この三連休に、私がサラリーマン時代勤務していた会社の知財部門のOB会がありました。
で、参加させていただいた(というか、幹事の末席に名前を連ねさせて頂きました)のですが、色々と感慨深いものがありました。
参加者は最年長の方はもう会社を定年で退社されて、20年以上という方で、一番若い方は30歳前後です。こういう幅広い年代の方が集まる宴会というのも、珍しい気がします。
一番年上の方は、知財部門に移られたのは昭和40年代ということですから、私が生まれた頃です。一番若い方はまだ生まれてもいないはずです。
知財の仕事はスパンの長い仕事です。私も会社にいるときは、自分が入社するより前の面識のない先輩方が出願を担当された案件について、中間手続をすることはよくありました。
そういう形でかかわりのあった方というのは、どこか「他人」のような気がせず、初対面のはずなのに、「これがあの××さんか」と妙に懐かしい気持ちになってしまうのでした。
ちなみに、先日は、弁理士会の義務研修(倫理研修)に参加したとき、たまたま同じ日に事務所勤務時代の「顔を知らない先輩」にお会いして、名刺交換させていただくこともありました。
その方は、私が事務所に入る2ヶ月前に退所された弁理士で、私はその方が担当されていた顧客企業をそのまま引き継がせて頂きました。ですから、その方が出願を担当された案件についての中間処理は非常に多くの数、行わせて頂きました。
そういう方とお会いするというのも、不思議な気持ちです。初めてなのに初めてでないような感じ、と言いましょうか。その方が書かれた明細書を多く読んでいると、他人ではないような気がするのに、現実にはお会いしたことがない、というのは不思議な関係です。
私も会社を辞め、特許事務所を辞め、ということをしてきたので、会社や事務所では名前だけが伝わっていたりするのでしょうか。「昔、八木さんという人がいて……」という噂がどこかでされていたりするのでしょうか。
また、私が明細書を書いた案件について、中間手続をされている方のなかには、すでに「私が顔を知らない後輩」がいて、私が書いた明細書を読みつつ、「この人はどんな人だったんだろう」ということを想像していたりするのでしょうか。
そうやって仕事が引き継がれていく、というのが奇妙に面白いことのような気がして、少し気分の晴れた三連休でした。
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2011年9月22日 木曜日
弁理士試験合格発表
特許庁ホームページで今年の弁理士試験の二次試験の合格発表がされていましたね。今年ももうそんな季節になったか、という気分です。
しかし、一時期に比べると受験者数も合格者数もずいぶんと減ってきたようですね。しかも、最近は三次試験の口述の合格率が下がっていますから、今年どれくらいの最終合格者がでるのか、まだ分からない段階です。
しかし、口述の合格率がここまで低くなると(去年は7割)、受験生はつらいですね。去年口述で不合格だった3割の方が今年も口述受験されるでしょうが、2年連続口述不合格、となる方もある程度の割合で発生する、と思われますが、そういう状況に陥った方の胸中を思うと、ちょっと苦しいです。
それだったら、筆記試験で不合格のほうがまだ気が楽、というか。
とりあえず、二次試験に合格された方は、まだまだ「おめでとうございます」という言葉を受けるには早いですよ。ここで失敗するとまた一年、勉強が続いてしまいますから。気を引き締めてがんばって下さい。
しかし、弁理士試験の合格発表を見ていると、ついつい自分の出身大学が合格者ランキングで何位にいるだろう? ということを調べてしまいます。あまり弁理士試験の結果に興味がなくなっているはずなのに、そこだけは見てしまうというのも、どういうことなのでしょうか。自分でも不思議です。
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2011年9月17日 土曜日
米国特許法、先願主義へ
米国特許法改正の記事がでましたね。
まあ、これについて、私ごときが語ることはありません。その意義やらこれから検討すべきことなどは、あちこちで色々な人が語っており、またこれから語られることでしょうから、そちらを見ていただければ、と思います。
私もこれから改正法の勉強をしなければ、と思っています。
まあ、大方の意見は、
「米国だけほかの国と違う上に、実利的ではない「先発明主義」を採用して、面倒くさかったのが解消されてよかった」
という判断でしょう。
それは、日本人だけではなく米国人でも「よかった」と思っている人が多いのではないでしょうか。
まあ、確かに米国のこの制度は現代の社会に合わないですし、私が知財の仕事を始めた頃からずっと改正の話は出ていたので、「ようやく」という印象です。
今のところ、まだ改正内容の勉強をそれほど詳細にしているわけではないので、この件についてはこれ以上書きません。
また勉強をした後で、書くべきことを感じたら何かネタにさせて頂きます。
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2011年9月14日 水曜日
よもや自分が・・・
独立してから、技術交流会に顔を出したりして、あちこちの会社の方とお話する機会が増えています。
そういう場で「弁理士です」と自己紹介してお話すると、自然に知財の話になるのですが。
そこで「なるほど」と思うのは、研究の人も知財の人も多くの人は
「よもや自分が知財の裁判に巻き込まれるようなことはないだろう」
と心のどこかで思っている、ということです(まあ、大企業の大きな知財部は話が違うのかもしれませんが・・・)。逆に「特許で他社を攻めて、市場を独占してやる」と熱く語る方にお会いすることなど、めったにありません。
えらそうに書いていますが、私自身、研究者時代も会社の知財部員時代も「よもや自分が・・・」と思っていたように感じます。
いやまあ、それが間違っていると申し上げるつもりはありません。実際、知財訴訟が発生している件数なんて、それほど多いわけではないですし、研究の方も知財の方も知財訴訟になどかかわりを持つことなく、企業人生を終える方がほとんどです。
でも、一つだけ申し上げたくなるのは、
「知財訴訟に巻き込まれてしまった人も、ほとんどは「自分が知財の訴訟に巻き込まれるとは思ってもいなかった」と感じているはず」
ということです。
知財訴訟といえば、大企業が高度な先端技術でやっているものであって、そんなもの普通の会社には関係ない、という考えは通用しません。
最近、新聞で話題になった切り餅事件(サトウ食品と越後製菓の特許訴訟事件)などは、切り餅に入れる切れ込みに関する特許であって、「先端技術」に関するものではありません。
また、この事件は(おそらく)「餅業界」では初めて起こった特許訴訟でしょうから、「これまで問題が起こったことないからこれからも問題は起こらないだろう」、という考えも通用しません。
100年前からまったく同じ製造方法で変わらぬものを作っている老舗の店みたいなところ以外は、メーカーである限り、特許訴訟に巻き込まれる可能性は絶対ゼロにはなりません。
だからといって、その「万一」に備えて、すべての会社が知財の備えを100%きちんとすべき、とも言えないとは思うんですよね。そこのところが難しいところなのですが。
さっきも書いたとおり、知財訴訟に巻き込まれる可能性はそれほど高いわけではありません。ですから、そんな確率の低いできごとへの備えに金をつぎ込むわけにはいかない、というのも真理です。
ここのところは難しいところなので、私もそういう話になったとき、「もっと知財に力を入れるべきです!」と主張したりもしないです。ただ、「そもそも知財って何だろう?」などと思ったりして、色々と悩みが深くなってしまうわけですが。
それは、自然災害への備えみたいなものかもしれない、とも思います。大きな自然災害が続いているときにこう書くのは不謹慎かもしれませんが。
「どこまで備えるか」ということについて、正解はないと思います。しかし、「知財訴訟なんて自分には関係のない遠い世界のこと」と思うのは、やはりよくないことのように思えます。
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2011年9月 9日 金曜日
米国の懲罰的賠償
少し法律の仕事をされた方なら、誰でも米国での三倍賠償のことはご存知だと思います。米国では故意による不法行為の損害賠償においては、懲罰的賠償の制度があって、特許訴訟の場合は最大で損害額の三倍の懲罰的賠償が発生する、というものです。
このことが米国で損害賠償額が高くなる原因の一つと言われています。
とまあ、これくらいのことまでは、ちょっと特許のことを齧った人なら誰でも知っているわけですが、そこから先となると案外みんな知らないですよね。
もちろん、私もこのあたりのことを詳しく勉強したことはありません。
そこで、先日、「懲罰的賠償」をテーマにした弁理士会の研修に参加してきました。
非常に面白く、有意義な研修会だったのですが、それと同時に
「勉強しなければならないことはまだまだ多いな」
とも思った研修会でした。
米国で懲罰的賠償によって巨額の損害賠償が・・・という話であれば、マクドナルド・コーヒー事件が有名ですよね。
マクドナルドのコーヒーを膝の上にこぼしてやけどをした、と訴えを起こして、270万ドルの懲罰的賠償を認めた、というアレです。
あのマクドナルド・コーヒー事件というのは、みんな、「アメリカのトンデモ事件」という解釈をしていて、アメリカはとんでもない国だ、という解釈をする人が多いようですが、専門の弁護士の先生から話を聞くと、それはそれで理屈の通った話があるわけですよね。
それに、270万ドルというのも、陪審員の評決であって、最終的にマクドナルドが支払ったのはもっと安いということですし。
私はそのあたりの話ちゃんと知らなかったので、そのお話の部分だけでも「へえ」と思って非常に勉強になった、と感じました。
詳しくは、こちらをどうぞ。詳しい経緯を読んでも、面白いので。
それにしても、そのほかの話も含めて色々と考えさせられた講習会でした。
日本人のアメリカ裁判のイメージというと、
「弁護士が多いから訴訟社会」「弁護士が成功報酬のみだから裁判が頻発」「陪審員制度だから、とんでもない高額の損害賠償額も出やすい」
という感じでしょうか。私もそういう「ネガティブ」なイメージを抱いていた面があるのは事実です。
しかし、こういった講習会で話を聞くと、アメリカの法制度にも「日本の法律」にはない「よいところ」があるのは確かに事実だな、と思いました。
「法律」なんて、人間の取り決めですから、「絶対的に正しい完璧な法制度」なんてものは存在しないわけです。日本の法律には日本の法律のよいところが、アメリカの法律のはアメリカの法律のよいところがあるのは、考えてみると当然のことです。
「懲罰的賠償」にしても、これを通じて「世の中をよりよくしていく」という思想が根底にある、というところは、機械的な処理をする日本の法制よりもよいところなのかもしれない、と思いました。
実際、マクドナルド・コーヒー事件の後に、マクドナルドは火傷をしにくいように、コーヒーの温度を下げるなど、多くの方策を取ったということですから、そのための「懲罰的賠償」ならそれはいいことだな、と思いました。
こういう、特許以外の法律のことももっと勉強しなければならない、と強く思った帰り道でした。
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