特許コラム

2011年8月27日 土曜日

恐怖のパテント費用

 「恐怖のパテント費用-テクノロジをパテント訴訟業の餌食にするな。」というタイトルの記事をネットで見つけましたので、この内容について。
 
記事はこちらです。→
 
 長いので、全部を引用することはできませんが、少しだけ記事からの引用を。
 
「企業がパテントにこれだけの巨額を払うのは、技術そのものが目的ではなくて、今後起こりうるパテント訴訟という大きな津波から身を守るためだ。GoogleやApple、Microsoftなどが投ずるこれらの何十億ドルという金は、新製品開発や、新たな雇用や、新たな設備投資など、生産的な活動には向かわない。しかも、これらのパテントが新しい製品を作るために使われることは、まずない。Googleは、他社のパテント攻撃からAndroidを守ろうとしているにすぎない。」
「パテントは本来、発明者(新しい製品を作って社会の進歩に貢献した個人や企業)を保護するために考えられた仕組みだ。でも最近の10年間では、何か恐ろしい間違いが横行している。パテントが、発明者を守るものではなく、単なる財務的法律的武器として使われ、製品の研究開発/製造/販売等はまったくしていない”無営業実体(non-practicing entities)”(すなわちパテントトロル)が、生産企業から金をむしり取るための手段として、ポートフォリオをかき集める。」
 
 ここのところ、残念ながら真実といえるでしょうね。
 ここ数十年ほどの間、「金を儲けるための手段を選んではいけない」という大変危険な思想が世界中を支配しているわけです。その「手段を選ばない金儲け」と知財がつながり始めた、とも感じます。
 
 こういう記事を読むと、日本人はたぶん、永遠に「世界で戦う」ことなんかできないだろうな、という気もします。日本人は、
「特許を侵害していようがとにかく、進出する。特許のことなど、後で考えればいい」とか、
「他社が困ったり、世界の供給体制が混乱しようと、自分は金儲けのために権利を主張する。法律に違反していないんだから、それの何が悪い?」
というような「荒々しい気性」を持ち合わせていない、と思います。
 それを持たないと、「世界で戦う」ということにはならないでしょう。ま、戦わずにこっそりと外国に忍び込むのが日本のやり方、とも言えるわけですが。
 
 というわけで、現在、こういったアメリカでの特許の状況というものが日本でも発生するか、というと、日本ではそうはならないんじゃないか、という気がします。
 そういう意味では、日本国内ではむしろ「特許」というものは「本道」のなかで進めていき、アメリカについてはアメリカ特有の問題として考えるべきかもしれません。
 
 ただ、アメリカでも巨大な売り上げを持っていたり、主要なライバル企業がアメリカ企業であったりするような企業は、「アメリカの特許」については日本の特許と切り離して考えるべきかもしれない、という気もします。
 特に、IT情報関係で技術の移り変わりの速い業界は注意が必要かもしれません。
 
 それにしても、「屁理屈であらゆる物の経済的価値を吊り上げて金儲けする」という現在のアメリカのやりかたは、いつまで続くのでしょうか。そろそろいい加減にして欲しいところです。

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2011年8月27日 土曜日

発明とは難しいものなのか?

 サムスンとアップルが訴訟をしていますが、そのなかでサムスン側が「2001年宇宙の旅」の映像を証拠として提出した、という話がネットニュースで出ていました。
 その扱いが「キワモノ」ニュース扱いなのに少し驚きました。「ネタ扱い」というか。「特許訴訟なのにそんなものを!?」みたいな感じで。
 
 でも、証拠として提出したのは意匠がらみの話ですからね。あのタブレットのデザインが昔から知られたものであって、アップルが新たに作り出したものではない、ということを示す証拠なら、そりゃあ映画の映像だって普通に証拠になるでしょう。
そう考えると、そんなキワモノニュース扱いにするようなことでもないと思うのですが……。
 
 私は、(何度か本ブログでも書いたように)サラリーマン時代は化粧品特許の仕事をしていました。化粧品特許で情報提供をするときに提出する文献が女性雑誌のコスメ関連記事、ということなんてのも、何回かありました。それを思うと、SF映画の映像を、今回のような意匠ではなく、特許の先行文献として提出する可能性でさえゼロではないですよ。
 
 なんとなく、あまり研究とか特許に関わったことのない人は、技術や特許というのは「難しいもの」「自分たちに理解できないような高度なもの」というふうに考えがちですよね。
 でも、そういう考え方は捨てたほうがいいんじゃないかと思います。
 
 誰でも理解できるような単純なアイディアが商品になっているものなんて、世の中に沢山あるでしょう? 以前、本ブログで取り上げた花王vsヘンケルの訴訟にからむ染毛剤特許なんて、専門家でなくても思いつきそうな、単純なアイディアです。(洗顔フォームで使うような泡洗顔容器に染毛剤を入れる、というだけのことですから。もっとも、そういうものほど逆に盲点になりやすいとも言えますが)
 
 あの技術だって、花王という特許に関して厳しい考え方をする会社だから、特許出願して早期権利化をして訴訟も提起して、ということをしました。
 でも、もしもあれを思いついた会社が特許のことを分かっていなくて、「特許というのは難しくて高度なものを出願するもの」と思っていたらどうなったでしょうか。
 
 場合によっては、「こんなもの、誰でも思いつくことだし特許にならないだろう」と思って、特許出願もせず、短期間で他社に真似されて、大量の商品群のなかに埋もれてしまう、という経緯をたどったことでしょう。
そのことについて、「特許を出していたほうがよかったのに……」という助言をしてくれる人が誰もいなければ、「自分たちが失敗をした」ということさえも気がつかないでしょう。
 
 私がサラリーマンで研究者の頃に言われたこととして、
「技術的に簡単で誰でも思いつきそうに見える技術の特許のほうが重要だ。高度な技術はほんとうに商売になるかどうかも分からないし、技術が難しいから他社も簡単に真似できない。でも、簡単な技術はすぐに実現しやすいし、実現するとすぐ他社に真似される。だから、「技術的に簡単そうに見える特許」をバカにしてはいけない」
との言葉を、今でも覚えています。
 
 そういったもろもろのことを思い出していると、サムスンが「2001年宇宙の旅」の映像を証拠として提出した、ということを、「キワモノニュース」扱いなんかしては駄目ですよ、と改めて思います。

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

2011年8月18日 木曜日

盆休み


 盆休みもあっという間に終わり、事務所も平常運転となりました。
 というか、一昨日から仕事をしていたのですが、ブログの盆休みは仕事より少し長め、ということになりました。
 
 で、盆休み明け一発目のブログ更新となるわけですが。
 
 盆休みに実家に帰りまして、久しぶりに兄と話をしました。兄は某電機メーカーで開発の仕事をしております。で、最近のアップルとかアンドロイドの辺の話になったわけですが。
 
 最近のアップルの特許訴訟はすごいわけです。最近では知財のニュースサイトなどを見ていると、アップルがらみの記事ばかりです。私は化学メインの弁理士なので、このあたりの詳細な社内事情は分からないし、業界慣習やアップルという会社の社風も分からないので、いまひとつピンと来ないまま、その記事を見ていました。
 今回のような話ですと、どんな特許でどんな商品を訴えたか、という法律上の話よりも、アップルの世界戦略、業界のこれまでの経緯とか、アップルとその他の会社との関係とかいった、企業間の背景のほうがずっと重要であるように思います。
 
 こんな言い方をするとアレですが、たぶん、何かの形でアップルに対する特許侵害は起こっているんじゃないか、という気がしますし。ああいう複雑な世界で、沢山ある特許のすべてを回避したら、類似商品はなかなか製造できないでしょう。
 ただ、そのなかでアップルが敢えてここまでの「おおごと」に話を広げた、ということの背景は何なのか、ということが重要なのだろうな、と漠然と思っていました。
 なんだかんだ言って、訴訟というのは面倒くさいし大変なので、あまり事態を「おおごと」にしたくない、と考える人が多いですから。
 
 と、そんなことを思ったりはしていたものの、私は電機業界とは無関係の人間なので、遠くから見物しているような気分でした。もともとコンピューターへの興味もゼロですし、スマートフォンも持っていないです。アップルという会社がどんな会社かもぜんぜん知りません。
 
 で、そんな中で久々に兄と話をすると、やっぱり業界内部の人しか知らない話が満載で、非常に面白かったです。その内容はここでは書きませんが。
 でも、なぜこんな「おおごと」に話が広がったのか、ということの一端だけでも分かったような気がしました。
 
 いずれにしても、この訴訟は確かに色々と大変なことになるな、という印象をより強くしましたし、日本企業はこの訴訟にかかわることがなければいいな、と思いました。
 そして、こういうデカイ業界のデカイ話は大変ですが、それでも根本のところは、小さい業界と同じような発想で動いているんだな、と思ってしまいました。
 

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2011年8月10日 水曜日

予定通りにいかない

暑いといけませんね。
最近、ブログのつもりで文章を書き始めると、いつの間にかただの毒舌を並べた文章になっていて、お蔵入りしてしまった文章がものすごく増えています。
どうも、暑いと心のブレーキが緩んでしまうようです。
 
ので、ちょっと普段と違った話を。
 
独立してから、色々なことについての考え方が大きく変わった、と思います。
簡単にいうと、頭で色々考えて計画を立てる、ということをしなくなった、とでも申しましょうか。
むしろ、自分の勘が発するメッセージに従って行動する、という感覚とでも言いましょうか。「これをやりたい」と思う、そのときの勘を大事にする、とでも言いましょうか。
それが今の私のキーワードのように思います。
 
独立して特許事務所を開いて以来、自分の考え方がどんどん、そっちのほうに向かっているような気がします。
「商売」という観点で特許事務所の仕事を捉えると、「計画通り」に進むことなんてほとんどありません。私も最近では、「計画」なんて立てるだけムダ、とさえ感じるようになってきました。達成できない「計画」なんかを立てても、精神的につらくなるだけです。
 
それよりも、先のことは深く考えずに、とにかく依頼頂いた仕事を必死でやる、と。そして、その合間で思いついたほかのことも気の向くままにやって、そこから仕事につながればラッキー、くらいの気持ちでいるのがいいのかな、と。
そして、それで仮に仕事がこなくて、事務所がうまくいかなくなったら、そのときのことはそのときに考えればいい、と。
 
独立してから、「予定通りにコトが運ぶなんてほとんどない」ということをしみじみ思います。それは「いい意味」でも「悪い意味」でも。「こんなところから仕事が来るとは思わなかった」という仕事が来ることもあれば、期待していたのに空振り、ということもしょっちゅうです。
とりあえず、「予定通りにいかない」ことを「怖い」と感じてはいけない、と最近思います。それよりは予定なんか立てず、そのときに思いついた「やりたいことをやる」、というほうが正しいかな、と。
 
独立する、というのはこれを受け入れられるかどうか、ということなのかもしれないですね。
「計画通りにいかない」ことを受け入れられない人は、あまり独立はしないほうがいいのかもしれません。「思い通りにならない」状態でも、その状態で何をすべきかを冷静に考えられる、ということが独立してうまくやっていく上では重要なのかもしれません。
 
ま、そうは言っても私も、仕事が来ない時期が長く続くと、精神的に不安定になってくるので、まだまだ修行が足りないというところですが。
 
こういう感じのことを、これから独立したいと思っている弁理士の方へのアドバイスとして書いてみました。
ま、でも「思い通りに行かないからこそ、楽しい」とも言える部分はあるので、別にそんな重く捉えるようなことでもないですけどね。

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2011年8月 8日 月曜日

企業経営に役立つ特許とは?

 最近は、暑さで更新も滞り、内容も薄くなってしまった本ブログです。夏に弱い小学生だった私も、大人になってそこを克服したつもりでいたのですが、年を取ったせいかここ数年でまた夏に弱いという状態に戻っているようです。
 
 そんなことはさておき。
 
 今度、とある場所で特許のレクチャーをやることになりました。まあ、それはオープンな集まりではなく、閉じた集まりなのですが。
 そこでのタイトルですが、色々と悩んだ挙句、
「企業経営に役立つ特許とは?」
としました。
 
 こういうタイトルで話をしようと思った理由はというと、「企業経営に役立たない特許」が世の中に多すぎる、と感じているからです。
 ま、こういうことを言うと、所長弁理士としては自分の首を絞める部分があるのですが、でも、誰かが言わなければならないことじゃないのか、という気がします。
 
 「特許の値打ち」についての「見積もり」は重要なことじゃないのか、と私は常々思っています。それは、経営における「経費」ともかかわるところですし。
 それなのに、ここの考え方は「今一つはっきりしない」という気がしないでもないです。「企業経営の役に立たない特許」に金をつぎ込んでいる会社は多いように思います。それは、「見積もり」をしていないからじゃないのか、とも思います。
 
 私はこのあたりは、費用対効果で考えるべきではないのか、といつも思います。
 一千万円の値打ちがある特許を取得するためなら、300万円をかけてもかまわないけれど、200万円の値打ちの特許に300万かけてはいけない、という。
 
 こう書くと「何を当然のことを」と思われる方も多いでしょう。
 でも、それをやる上でもっとも重要になる「特許の値打ち」を(アバウトでも構わないので)見積もる、という作業をどれだけの人がやっているのでしょうか。
 その見積もりが非常に難しいのは事実なのですが。でも、独断と偏見ででも構わないので、「見積もる」という習慣がなければ、特許の経費を「費用対効果」という観点で評価することはできない、と思います。
そして「見積もり」ができなければ、真に高い経済的価値を持つ特許も取れない、と思います。
 
 「とりあえず特許は取っておく」「特許をとっておいたらそれで商品は守られる」というあいまいな考えだけで、特許の具体的内容については深く考えない、という姿勢が日本企業の平均的な姿勢のように思ってしまいます。
 新聞や雑誌の経済評論家の言葉を見ると、「日本は知財によって技術を守らなければならない」と言っていますが、そんなことは二十年も前から言われていたことです。今更そんなことを言われても、「分かっているよ」としか言えない気がします。
 
 重要なのは、そんな理想的一般論ではなく、
「どうやって、知財によって技術を守るのか」
という具体的方法論であって、そのことについて具体的なことを言ったり書いたりしている人は極小であるように思います。
 そして、その具体的方法論の肝になるのは、結局、「特許の値打ち」の「見積もり」になるのではないか、と私は思います。
 
 そんなことを偉そうに書いたところで、私のような末端の一弁理士にできることは限られています。でも、折角の機会なのでそういう観点から話をしてみよう、と思うに至ったわけです。
 夏で弱っているので、その準備も滞り気味ですが、そろそろ頑張って本気で準備を始めるか、と思っているところです。

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

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