特許コラム
2011年7月31日 日曜日
「日本の歴史をよみなおす」
「日本の歴史をよみなおす」(網野善彦著;筑摩書房 1991年第一刷発行)を読みました。網野氏の本は以前から一度読もうと思っていたのですが、ようやく読めました。
網野氏といえば、日本の歴史学では大変に有名な方です。なにしろ、歴史学のことは何も知らない私でも名前は聞いたことがありましたから。
私は高校時代の日本史があまり得意ではありませんでした。機械的に丸暗記するということが大変苦手だったせいで、背景の説明もなく起こった事件を列挙されてもまったく覚えられませんでした。共通一次(古いですね。すみません)の日本史も決して褒められた点数ではありませんでした。
でも、人間歳を取ると歴史に興味が向かうというのは確かにそのとおりで、私も最近、いろいろと歴史関係の本は読むようになりました。
で、そのたびに「分からない」と感じてしまうのは、「原始時代の未発達な社会」から、現在のような複雑化・ネットワーク化した社会に変わっていく、途中の過程って、どんな感じだったんだろう、ということでした。
学校で習う日本史というのは、考えてみると「権力者の歴史」ですよね。大化の改新の昔から、南北朝時代、戦国時代、明治維新、といった時代のなかで政治的にどんな事件が起こったか、という話が主体です。
でも、世の中は別に権力者だけで成立しているわけではありません。
それぞれの時代の中で一般庶民は権力と関係なしに、それぞれの人生を生きていたわけです。そんな暮らしのなかで世の中は徐々に変化していったはずです。
そんな「社会が徐々に変化していくさま」みたいなものについて、この本は色々な角度(文字、貨幣等が章タイトルに挙がっています)から説明してくれます。文章も非常に平易で、読みやすいです。私のような歴史学初心者が読むには最適だった、という気がします。
そして、これまで自分がまったく知らなかった日本史についてのある部分について、随分と勉強できた、という気がします。
私たちが「日本」についてある程度理屈で理解しようとすると、「権力者の歴史」よりもこういった「庶民の歴史」「社会の歴史」のほうが重要なのかもしれない、と読み終わって思いました。それが、今の社会の根底に流れている「日本人の考え方」を知る上でも重要になるような気がします。
というわけで、今日のブログは特許に関係のない話ですね、ということになるわけです。
しかし、特許の仕事をやる上では、こういうことの知識というのも実は重要なのかもしれない、と思いもします。
弁理士に限らず、「法律」の仕事をしていく上では、「社会」とか「人間」ということについて勉強することは重要なことのようにも思います。
裁判においては、「善悪の判断」をしている面があるわけで、そのような「善悪の判断」においては「社会の常識」とか「個人と社会のかかわり」ということも知識として知っておく必要があるようにも思います。
また、「企業における知財マネージメント」ということを真剣に考えるのであれば、「日本社会はどのような社会であるか」ということについて、知識を持つのは非常に重要なことでしょう。
そういったことを理解するうえでは、「社会の歴史」を知ることはおおいに役立つことであるように思います。
そういったところまで考えさせられた、という点ではやはりこの本は非常にいい本ではないか、と思います。初版から20年経っても内容が古びていないのもさすがだと思いました。
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2011年7月30日 土曜日
医薬品巡る特許訴訟、大合議で審理へ
7月26日、日本経済新聞の記事です。
法律解釈の重要な判断に関する事項について地財高裁が行う大合議審理ですが、協和発酵キリンが被告となった医薬品特許の事件が大合議に入るそうですね。
ほう、と思ったので、地裁判決をぱらぱらと繰ってみました。詳細には読んでいませんので、誤りがあればご指摘下さい。
対象となる特許の請求項1は以下です。
「次の段階:
a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し、
b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し、
c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し、
d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え、そして
e)プラバスタチンナトリウム単離すること、
を含んで成る方法によって製造される、プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり、エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム」(註:登録時の請求項1です)
a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し、
b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し、
c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し、
d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え、そして
e)プラバスタチンナトリウム単離すること、
を含んで成る方法によって製造される、プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり、エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム」(註:登録時の請求項1です)
判決文によると、その後、訂正審判がなされているようなのですが、そこを書き換えるのも面倒なので、興味のある方は判決文を当たってください。
一見して分かるように、この請求項は「方法」によって特定された「物」の発明です。
「a)~e)を含んで成る方法……」
とはっきり書いていますからね。
こういうものを「プロダクト・バイ・プロセス特許」(日本語で言うと「方法的記載を含む物の特許」とでもなるでしょうか)といい、化学特許の世界では一つのポイントになるところです。
原告の主張は、このような発明の場合、
「最終物が同じなら、製造方法が違っていても特許の範囲内」
というものです。要するに、製造工程においてa)~e)の工程を完全に満たしていなくても、販売しているものが同じなら権利範囲内、という主張です。
特許のことを知らない方からすると、「何でそんな主張ができるの?」と思ってしまうのではないでしょうか。
私は、正直、この事件での原告の主張はちょっと苦しいな、ということを思います。確かに「プロダクト・バイ・プロセス特許」において、製造方法が異なっても権利範囲とみなすべき場合はあります。
でも、この特許の場合はそうじゃないだろう、という気がしてしまいます。おそらく、地財高裁もこの事件を材料に、「プロダクト・バイ・プロセス特許」の解釈について何か基準を出すつもりなのだろうな、と思います。
このあたりはある程度、判断の基準ができている部分ではあるので、そこから大きく逸脱することはないと思いますが、高裁判決には注目したいと思います。
で、ついでに申し上げると。
化学系の分野において、発明者の方が明細書を書くと、無意識のうちにプロダクト・バイ・プロセスの発明として請求項を書いてしまう傾向があるように思います。
実際に研究をされている方からすれば、「自分がやったこと」を「方法」として捉えてしまいがちなのは、自然なことです。
実際、私が発明者の方が書かれた請求項案を見て、最初に手を加える場所は、大抵、「方法的記載をできるだけ「物」の請求項から排除する」ことです。
方法的記載は、いろいろと解釈はありますが、化学の物クレームにおいては、「やらなくて済むならやらないほうがいい」記載であるのは事実です。このあたりも、機会があれば本ブログで少し触れさせていただきます。
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2011年7月15日 金曜日
天神祭の季節が......
大阪はもうすぐ天神祭の季節ですね。
と、もっともらしく始めましたが、私、天神祭は大学院生時代に一回行っただけで、その時の記憶も「人が多かった」ということしかなくて、本当にあまり印象がないです。
まあ、もともと大阪出身ではないですし、今も大阪市内に住んでいるわけではないので、なじみ深く感じなくても当然のことですが……。
天神祭といえばいつも思い出すことが一つありまして。
それは数年前の天神祭の季節。当時、特許事務所に勤務していた私は、ドイツから弁理士の方が来られたので、一緒にディナーということになり、私が勤めている事務所の弁理士数名と夕食に行きました。
その際、ドイツの代理人の方と話をしていて、日曜日に大阪に着かれたとおっしゃっていたので、
「じゃあ、日曜は大阪で過ごされたんですね。どこか行かれましたか?」
「その日は祭りで花火をたくさん打ち上げていたので、それを見ていた」
という感じの話になりました。
その日曜日が丁度天神祭の日だったわけです。
それで、天神祭の話になったのですが、そこで、
「天神祭というのは、どういう謂れのある祭りなのか」
ということをドイツの代理人の方に質問されました。
その場には4,5人は日本人がいたと思いますが、誰も答えられず、でした。
まあ、私は大阪の人間ではないし……等と心の中で言い訳をしていたわけですが、
「あー、これが「海外の人と交流するなら日本のことを知らなければならない」ということの意味か」
と妙に納得したことを思い出します。
その翌日に、すぐネットで天神祭の謂れ等を調べたことも思い出します。
外国の方と話をしようとすると、英語が話せないと言う問題もありますが、「何を話していいか話題に困る」という問題も一つあるわけです。先方も真剣に天神祭の謂れが知りたかったわけではなくて、話題の一つとして質問されたんだろうな、と思います。
そういうことも分かった上で、こういったちょっとした質問にスマートに答えられたら、カッコいいなぁと思ったのでした。
それ以来、夏が来て天神祭の季節になるたびにそのことを思い出してしまいます。とはいえ、あの頃に比べて日本について知識が増えたか、というと、そうでもないという気がします。
また色々頑張らないといけないな、と思います。
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2011年7月10日 日曜日
「日本人の知らない日本語」
「日本人の知らない日本語」(蛇蔵&海野凪子 メディアファクトリー)という漫画をこの前買って読みました。1,2と2冊出ています。
何かというと、日本語学校の教師をしている方がそのなかで起こった色々なことをコミックにしている、という内容です。
マンガとして非常に読みやすく書かれているし、内容も面白いので、よく売れているのは当たり前、と思いました。実際問題として、私もこの本で初めて知ったことは非常に多く、勉強になった、というのが最初の感想です。
最近、「グローバリズム」とか「グローバル人材」とかいうことを語られることが多いですよね。そして、
「国際人として生きたいのなら、海外のことに詳しくなろうとする前に自国のことに詳しくならなければならない」
ということもよく言われることです。
このマンガを読んでいると、そういうことにも思いが行くことが多々ありました。
この本のなかで外国人学校の生徒さんたちが先生に尋ねる多くのことは、普通の日本人ならすんなりとは答えられないようなことばかりです。(「花札の「あのよろし」ってどういう意味ですか?」とか、「「お」と「を」は同じ音なのになぜ2つ字があるのか」とか)
こういうところを読んでいて、思い出したことがあります。
何年か前、ちょうど今頃(7月半ば)に大阪に来られたドイツの弁理士の先生と食事をしていた際です。その先生は、大阪訪問中が天神祭りだったため、天神祭を見に行かれた、という話をされていました。そして、
「天神祭はどういういわれのある祭りなのか」
という質問をされました。
その場にいた日本人は誰もその問いにちゃんと答えられませんでした。
でも、そんなことをちゃんと知っている人というのは、非常に少ないように思いますし、日々の会話でそんな話題が出ることもまずありません。
案外、自分たちが日々触れているものについては、「当たり前」すぎて、知らないことが多いのは事実です。また、そういうことに限って、「知ろう」という意識も働かないものです。そして、案外外国人の方と話をすると、そういうところを質問されることが多くなるものです。
そういうことについて、いろいろな知識を与えてくれたという点でも、またそんな「当たり前」の裏にも、色々と面白い背景が隠れていますよ、ということを教えてくれた点でも、このマンガは非常に面白かったです。
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2011年7月10日 日曜日
審査請求料の値下げ
審査請求料が2011年8月1日から値下げされますね。
8月1日以降に審査請求を行えば、基本的にはすべて値下げとなるようです。
ですから、7月中に審査請求期限がくるもの以外は、特段の事情がない限り、8月以降に審査請求を行ったほうがよい、ということになります。
これについてはこれ以上書くことがないのですが、一応の情報として書かせていただきました。
なにしろ、日本の審査請求手数料は非常に高額ですから、値下げは朗報と言えるのではないでしょうか。
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