特許コラム

2011年5月31日 火曜日

特許事務所で働くということ

 ここしばらく、仕事が忙しいのでブログが手抜き気味になっております。もうちょっと何とかしたいなと思いつつ、ゆっくりブログを書く時間を取りにくいので、今日も手抜きで。
 
 なんでこんなタイトルの記事を今日書くのかというと、アクセス解析で「特許事務所で働くということ」という言葉で本ブログを訪問した方がおられたのを見たからです。
 その「特許事務所で働くということ」という言葉が妙に気になったのと同時に、私は「特許事務所で働くということ」について深く考えたことがなかったな、と思ったので、タイトルにしてみました。
 
 要するに、タイトルを決めてから、適当に書き始めたということになるので、「手抜き」もここに極まれり、といったところでしょうか。
 
 ということで、考えずに書き始めて、ここのところまではすんなり書けたのですが、当然、ここで立ち止まるわけです。なんせ、「考えたことない」事項の話ですから。
 
 ただ、一つ思うのは特許事務所は「組織」で動くのではなくて、「個人」で動く部分が非常に大きいので、「個人の能力」がもろに明らかになってしまう仕事、ということは感じています。ごまかしが利かないとも思います。
 それはいい面も悪い面もあります。
 
 私は特許事務所で仕事を始めてしばらく経ったときに思ったことはというと、特許事務所勤務弁理士は水商売に似ている、ということです。
 事務所で所長に来た仕事を請けてやっているわけですが、そのなかで各担当者は「顧客に気に入られる」ことが重要になってくるわけです。
「気に入られる」といっても、それは人柄を愛されるというのではなく、「仕事の能力」によって気に入られなければならないわけですが。
 
でも、100%自分の思い通りできるわけでなく、「所長の方針」とか「部下との関係」とか「クライアントとの相性」などの色々なファクターがからんできて、「能力を発揮できていない」状態になることもあるでしょう。そのなかでバランスを取りつつ、自分の個性を出していくことも必要だと思います。
また、「人気稼業」的な側面もあるので、顧客に気に入られたせいで、ものすごく「多忙」になって体がもたなくなることもあります。そうなっても、誰も助けてはくれません。というか、助けようがない場合が多いです。
そういった諸々を引き受けてこそ、特許事務所勤務なのかなぁ、と思います。
 
更に言うと、特許事務所経営者というのは、特許事務所職員とはまた違った仕事についての考え方を持たなければならないように思います。
それが何か?
それはここでは書きません。
 

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

2011年5月29日 日曜日

「ハマースミスのうじ虫」

 今日は特許とは関係のない話です。
 
 私は推理小説マニアだった、ということは何回かここでも触れましたが、私の好みはイギリスの渋めの古い推理小説で、派手な出来事も起こらず、エキセントリックな登場人物の描写が延々と続くような小説でした。特に、1950年代以前の古いイギリスの雰囲気を持った小説が好きでした。
 
で、最近、そういった小説を久々に読むようになっていて、今は「ハマースミスのうじ虫」(ウイリアム・モール著 霜島義明訳 創元推理文庫 原著1955年 日本語版2006年8月)を読み始めたところです。
 
最初数ページを読んだところで「あれあれ?」と思って、ちょっとブログネタにするか、と思ったわけです。
そういうことなので、実は今日の内容は「ハマースミスのうじ虫」の内容とそんなに大きく関係はありません。ネタバレもありません。最初十ページくらいしか読んでいないんだから、ネタバレの可能性もありません。
 
 出だしのシーンは、主人公がクラブのレストランで顔見知りの銀行家に声を掛ける、というシーンです。
 言ってみればそれだけのことなのですが、語り口が非常に「策略的」なんですよね。
 
 その銀行家の様子が普段と違っているから、何が起こったか知りたいという好奇心から話しかけるわけです。その「普段と違う」と感じたのも、「何となく」ではなくて酒の量が違うとか書いて、ちゃんと「理由」を示すわけです。
そして、酔っているからからまれないようにとか、怪しまれずに銀行家の家に上がりこむにはどうすればいいか、とか、そういうこともいちいち「論理的」に行動するわけです。
更には、何気なく出てくる言葉が、いちいち「警句」めいていて、ちょっと深いんですよね。
「自分の性格をごまかせる人間はいません」
「預金通帳を見れば、持ち主の人柄が読めるでしょう」
なんてセリフがほんの数ページの間に出てくるわけです。
 
 で、この著者は元MI5に勤務していたというわけです。言ってみれば、元「スパイ」です。
なるほど、と思います。
 スパイというのはそういうことをやっているのだな、と。
 それとともに、ちょっと怖くなってしまったのも事実です。
 
 英国(そしておそらく米国も)においては、こういうふうに、「一見当たり前に見えること」に意味づけしていって、それへの論理的対応をおこなう、ということの「組織的教育」があるのかな、と感じたわけです。
 
 それがどの程度の範囲のものか、それがどの程度有効なものなのか。
 それは私には分かりません。
 
 でも、特許問題で英米系の会社を相手にするとき、敵は「そういう教育を受けた人」かもしれない、ということは考えなければならないとなのかな、という気がしてしまいました。
 ま、何気ない小説の出だしを読んだだけでこんなことを考えてしまうあたり、私もちょっと毒されているのかもしれませんが。

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

2011年5月26日 木曜日

「資本主義はなぜ自壊したのか  「日本」再生への提言」

 「資本主義はなぜ自壊したのか  「日本」再生への提言」(中谷巌著 集英社文庫 2011年)を読んでいます。
 まだ読み終わっていないのですが、半分以上を読んで「私が一番読みたかったところ」を読んでしまったので、少しネタにさせて戴きます。
 
 何かというと、グローバル資本主義者の推進者であった著者がなぜ、グローバル資本主義批判の本を書くに至ったのか、という過程こそが読みたかったところで、それは、4章までのところである程度書かれている、と思ったので、4章まで読み終わった今の時点で色々と感想を。
 
 まず思ったのは、かつての中谷巌氏というのは、勉強のできる人だったんだな、ということです。それを褒め言葉として言うわけではないです。
「勉強ができる人」というのは、教えられたことの意味を深く考えずに頭の中に入れることができる人、という面があると思います。
 
正直、若い頃の私自身にも、そういう部分があったのでその感覚が理解できます。要するに、自分で色々なことを考えるのではなく、既存の学問を自分のなかに移植しているだけで、勉強したことの「意味」を深く考えることはない、という。
 だから、大学卒業後に会社を辞めてアメリカに行かれた若い中谷氏が英米流の経済学の考え方に「かぶれた」過程のことは、何となく「分かる」気がするんですよね。
 
 私は経済に関しては、まったくの素人で「経済学」をきちんと勉強したことは一度もなくて、社会で色々経験してから「少しでも経済の本でも読んでみるか」とこういう本を読んでいるので、その辺で、中谷氏とはものすごく違った角度で「経済学」というものを見ているという気がします。
 
 それだけに、
「だが、はたして本当に経済学の理論体系は文字どおり信じてよいのであろうか。(中略)近代経済理論の「前提条件」を疑ってみる必要があると考えるようになった。いくら、ロジックが正しくても、その前提に無理があるなら、そこから導かれる結論の有用性はなくなるからである」(116頁)
という一節などを読むと、中谷氏のような頭のいい人が「そんなことに長く気付かないことが逆に不思議」でした。でもそれは、「勉強ができる人」がやってしまいがちな「失敗」なのかもしれない、とも思いました。
 
 でも、これだけの地位を築かれた方が、こういう立場のなかでこういう本を書かれた、ということに私は「勇気」tと「真摯さ」を感じました。
 この本は、そうやって「英米流の近代経済理論」にどっぷり漬かった経験を持つ中谷氏であるからこそ書けた本だと思いますし、読んで非常に勉強になりました。
 
 そして、以前本ブログで取り上げたエラリー・クイーンに私が馴染めない理由のところで書かせていただいた、
「ある論理から導かれた結論が現実と一致しないのなら、その理論か、あるいはその理論を導く上での前提の設定に間違いがあるはず、と私は思います。で、エラリー・クイーンの「チャイナ・オレンジの秘密」は、完全にその状態に陥っている小説、という気がしたのでした。」
という言葉を、なぜ本書を読んでいるときに思いついたのか、ということも少しお分かり戴けるのではないでしょうか。
 

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2011年5月25日 水曜日

2010年出願件数及び登録件数について

「2010年出願件数及び登録件数について」というタイトルで、データが特許庁ホームページ上で公開されています。
 
特許については、出願件数は減っていますが、登録件数は増えているという状況ですね。出願件数は2006年から毎年減少しており、2000年との対比では2割くらい減っていることになります。
 
出願件数が減ったから問題、というのは私があまり好きでない考え方です。「数字」にすると、なんでも意味があるように見えますが、それは単なる錯覚に過ぎない場合が多いです。
 
きっと、最近の新聞であれば、このデータに基づいて、
「日本の特許出願件数が減少→日本の産業競争力が低下」
という論理で記事にするところでしょう。
 でも、本当にそうなのでしょうか。
 
 「特許出願の件数が減った」原因なんてものは、ものすごく色々な要素が関わるわけですから、何の根拠もなく突然「産業競争力が低下」という結論を導くのは、論理性に欠ける考えでしょう。
 もっと論理的に色々な可能性も考慮すべきではないでしょうか。
 
 例えば、海外の出願件数を増やして、そちらに注力するようになったから、日本の出願は「そこそこ」で留めているという可能性はないでしょうか。
 現在、日本の訴訟件数は減少する一方ですが、反面、海外では訴訟問題は増えています。国際企業であるなら、このような状況下で日本での特許出願を増やそうとするはずがないでしょう。
 
 また、近年の日本では業界再編が進んでいます。例を挙げると、鉄鋼高炉大手であれば、新日鉄、NKK、川崎製鉄、住友金属、神戸製鋼と5社あったものが、新日鉄+住友金属(これはまだ予定ですが)、JFE、神戸製鋼の3グループに再編されました。
 5社時代は、5社それぞれが別個に研究を行い、特許出願を行っていたはずです。でも、合併が起こり、例えば、NKKと川崎製鉄が合併すれば、研究も再編されるでしょう。再編というのは、重複した研究テーマを集約していくことが行われるわけです。
 そうであるなら、それ自体が全体としては特許出願件数の減少につながるでしょう。
 
 また、ここ数年、特許庁がとってきた政策は、「特許出願を増やす」ことに主眼を置いたものではなく、むしろ「いかにして特許出願を減らすか」に置かれていたように思います。
 実際、一時期、ノウハウとして隠しておくべきことまで何でも特許出願することで、海外に技術知識が流出した面も否めません。そのような「ノウハウ流出の抑制」は特許庁の一つの政策方針であったわけですから、それをやれば出願件数が減るのは当然でしょう。
 
 こういった多くの要素を組み合わせて「特許出願件数の減少」を解釈することが必要です。
 
 こう書いたからといって、
「特許出願件数が減少してもまったく問題はない」
と言いたいわけではありません。
そうではなくて、「特許出願件数が減った」ことから何か分析をしようとするのなら、「なぜ減ったのか」という原因についてきちんとした分析を行うことが重要ではないか、と言いたいわけです。
 そのうえで、その状況判断に基づいて、今後の知財行政を考える、という姿勢がいるのではないかなぁ、と考えているということです。
要は「特許出願件数の減少=悪」という反射的な考え方はよくないのではないか、ということが言いたいわけです。
 
とはいえ、「出願件数の減少」という事象をどのように解釈するか、ということをきちんと分析する人は誰もいない、という問題は別のところにありますけどね。
私だって時間があればやりたい気はしますが、さすがに事務所を経営しながら、そこまでの分析をやる時間はないです。誰かやってくれませんか? 何か面白いことが見つかりそうな気もするのですが。

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2011年5月22日 日曜日

一年たちました

いつの間にやら、本ブログを始めてから1年が過ぎました。別に意識していなかったせいで、いつの間にか過ぎていたという感じです。
一年前といいますが、なんだかずいぶん昔のような気がします。それだけブログを書くことが日常化してきた、ということでもあるのですが。
 
それにしても、この一年、色々なことがありました。少なくとも日本の状況は一年前には予想もしていなかった状態になっているわけですが。
 
私個人のことはというと、開業丸2年だったのが丸3年を過ぎたという時期ですが、自分のなかでは色々と大変な1年でした。
 今だから書くのですが、やはり事務所開設1年目というのは、始めたばかりということで周りのことも見えない反面、「まだ1年目だから」という自分への言い訳があったわけです。
 でも、2年目、3年目ともなれば、「そろそろ形を作らないと」「それなりの状態にしていかないと」という焦りも出てくるわけで、1年目とはかなり違ってきます。
 
 その「焦り」みたいなものは今も残ってはいるのですが、ある種、去年が一番「焦り」が強かったような気がします。何となく、3年は一つの区切りとも言えるわけで、「3年経つ頃にはある程度の形にしたい」と思っていましたから。
 
 で、そういう時期にブログを始めたから、始めの頃は随分、肩に力が入っていたような気がします。ブログに対して云々というよりも、日々常に肩に力が入っていたせいで、ブログも妙な力が入っていたと言いましょうか。
 それが段々と力が抜けてリラックスした感じで書けるようになってきた、ということ自体、私の日常生活も少しは力が抜けて、リラックスして仕事に向かえるようになってきた、ということでもあります。
 
 一年ブログをやって分かったのは、
「弁理士がブログを書いたからといって、それが仕事につながる可能性は非常に低い」
という悲しい真実ですが、ブログを書くこと自体が楽しいということもあるので、のんきにやっていきたいと思います。

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

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