特許コラム
2010年11月10日 水曜日
審査官面接(2)
の続きです。
ポイント③
ポイント③
自分たちの説明を主体にするのではなく、審査官への質問を主体として話を進める
私が最も大切だと思っているポイントです。
どうも、議論に弱い人は、自分の考えを滔々と述べることに一生懸命になってしまい、相手への問いかけを重視しない傾向にあるように思います。
しかし議論においては質問する側に回ることは重要であると思います。例えば、審査官が引用した文献1に「アルコール」とだけ記載されているけれど、本願ではプロパノールを使用していて、引用文献1には「プロパノール」は記載されていない、と判断して欲しい場合を考えましょうか。
(例1)
出願人「引用文献1にはアルコールと書かれていますが、アルコールはメタノールもエタノールも色々あります。具体的にプロパノールが記載されていないのだから、引用文献1にプロパノールが記載されている、とする審査官殿の判断は誤りです」
審査官「しかし、プロパノールはアルコールでしょう? じゃあ、なぜ引用文献1のアルコールがプロパノールを含まない意図だと言えるのですか?」
出願人「引用文献1に記載されたような用途では、アルコールは普通メタノールかエタノールを使うので、プロパノールを使うことはほとんどないです」
審査官「引用文献1の用途でプロパノールを使うことは全くないということですか?」
出願人「いいえ。全く使わないというわけではないです。コスト的にエタノールのほうが安いので」
審査官「でも、機能的には同じでしょう? だったら、引用文献1にプロパノールも記載されていると判断すべきだとは思いませんか?」
出願人「でも、本願発明では、プロパノールを使わないと得られない効果があるので、そこのところも考慮して欲しいのですが……」
審査官「ふーん。なるほどねぇ」
(例2)
出願人「審査官殿は、引用文献1に「アルコール」と記載されていることから、引用文献1には「プロパノール」が記載されている、と判断されていますね? でも、引用文献1ではプロパノールは具体的に記載されていないと思うのですが、それでもプロパノールが記載されている、と判断されるのですか?」
審査官「そうですね。引用文献1の用途で、プロパノールが使用できないとする根拠があるのなら別ですが、アルコールと書いてあれば、当業者ならプロパノールに想到すると判断しています」
出願人「引用文献1の用途ではほとんどの場合、メタノールかエタノールを使うので、プロパノールを使用することはほとんどないのですが、それでも駄目ですか?」
審査官「全く使用されないというのであれば、検討の余地があるかもしれませんが、そこはどうなんですか?」
出願人「全く使用されない、とまでは言えないです。コスト的にエタノールのほうが安いので。とはいえ、コストということで審査官殿の判断を覆すのは苦しいですかね? やはり判断基準は機能ですか?」
審査官「まあそうでしょうね」
出願人「でも、本願の場合は、プロパノールを使用したときにだけ得られる効果があるので、そこのところも考慮して戴きたいのですが、そこはどのようにお考えですか?」
審査官「ふーん。なるほどねぇ」
この2つの例は、議論の内容は同じです。でも、読まれた印象はずいぶん違うように感じませんか? 質問をしている側(例1なら審査官、例2なら出願人)が会話の主導権を握っている、と感じませんか?
それだけのことなのに、最後の審査官の「ふーん。なるほどねぇ」という言葉のニュアンスにも差が出ているように思いませんか?
正直、相手が「敵」である場合には、こんなに簡単に質問する側に回れないのですが、審査官は敵ではありません。基本的にはこちらの話を聞こうという姿勢で来られるわけですから、こちらが話の主導権を握ろうとすれば、案外すんなりと主導権を渡してくれます。
また、面接の依頼をする際に、審査官の方から、
「どんな話をするのですか?」
と質問されることがあります。そのとき、私は
「拒絶理由の解釈で分からないところがあるので、その点について教えて戴きたい」
という言い方をすることにしています。
実際の場面でも、こちらからの質問を主体に話を進めるわけですから、実情に会った回答です。
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2010年11月 9日 火曜日
審査官面接(1)
弁理士の仕事は色々ありますが、そのなかの一つで弁理士の能力の差が一番でやすいところである、特許庁での審査官面接について、何回かに分けてお話させて戴きます。
ここのブログをこれまでに拝見された方はお分かりでしょうが、私は一つの話題を延々と続けるのが苦手なので、他の話題を挟みつつの気まぐれ更新になると思いますが、お付き合い下さい。
毎度のことですが、本題に入る前にお断りをします。
ここで書くのは「私のやり方」です。私は特許の仕事を始めて15年程度、その間に何度も審査官面接をやってきました。そのなかで、「私が正しい」と思うやり方をここで書かせていただきます。
面接のやり方は人それぞれで、正解のあるものではありません。しかし、「やらないほうがいいこと」「気をつけたほうがいいこと」があるように私は思っています。そういうちょっとしたコツのようなものを知っているだけでも、ずいぶんと結果が変わってくると思います。
また、ここで私が書くやり方が正しくない、と思われるのならそれで結構です。弁理士たるもの、自分の考えややり方があって然るべきであり、それが私のやり方と違っていたとしても、それは何の問題もないことです。
ただ、経験が浅くて、面接をやるときどこに気をつければよいか分からない、という方もおられると思うので、そういう方のために私なりの経験で考えていることを公開するという趣旨です。
あくまでも、「自分のやり方」を作っていくうえでの参考とするものと考えてください。
前置きが長くなりました。本題に入りましょう。
私が考えるやり方は幾つかポイントがあります。それを順次述べていきます。全部書いていくと長くなるので、このテーマは何回か続くことになります。何回になるかは自分でも分かりません。書くことがなくなったときが終わるときです。
ポイント①
面接は、言いたいことを言いにいくのではなくて、どうすれば特許が通るのか情報を仕入れにいくためのもの
これは、私の考えの根本です。
審査官はバカではありません。拒絶理由において審査官が言っていることは、ほとんどの場合、一応の筋が通っていることです。
それに納得行かないから「納得行かない」と言ったところで、「ああそうですか」と言われてしまうだけです。
審査官に対して「あなたの言うことは間違っている」と大見得を切れば気持ちはいいでしょう。しかし、それを言われた審査官が「分かりました。じゃあ特許にしましょう」と言うことは基本的にはないわけです。
あくまでも、特許査定を得るためにはどうすればいいのか、ということだけを考えて、審査官の判断の中で議論の余地があるところを何とか見つけ出して、そこについて審査官と話し合う、ということが根本姿勢になると思います。
その場で合意に至らなかったとしても、少しでも役に立つ情報が仕入れられればそれでいいと思うべきではないでしょうか。
ポイント②
拒絶理由通知をちゃんと読む
何を当たり前のことを……と思うかもしれません。
しかし、これがきちんとできていない人は結構いますよ。読むだけではなくて、拒絶理由において指摘された事項のどこで反論をするのか、自分のなかで決めておくことは必須でしょう。
上の①とも関わることですが、拒絶理由通知のなかでは反論しても無駄なところと、反論の余地があるところとがあります。反論しても無駄なところで反論すると、
「あ、この人、審査実情を分かっていないな」
という印象を審査官に与えるだけで、何のプラスもありません。
読みながら、反論の余地のあるところないところを区別して、反論の余地のあるところの議論のみを行う、という姿勢は重要だと思います。
と、ここまでは「当たり前」のことです。
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2010年11月 8日 月曜日
研究者とビジネス
先日お会いしたある方が、
「日本人の研究者はビジネスへの意識が低い」
ということをおっしゃっていました。その方がおっしゃるには、それをアメリカ人の研究者が言っていたとのことです。
それに対して
「そんなことはないです!」
と反論する材料は見つかりません。私自身も研究者時代にちゃんとビジネスのことを考えて行動していたか、と考えると、胸を張れなくなるところもあります。
最近、新聞などを読んでいると、
「日本人は技術においては優れているけれど、ビジネスで負けてしまう」
といった論調の記事をよく見ます。
その新聞の分析が正しいかどうかは分かりませんが、こういう記事の論調とその方がおっしゃった言葉が自分のなかでつながってしまったので、ううむ、と考えてしまいました。
企業の研究者は、確かにビジネスとしてどうやって儲けるかを考えながら研究をしなければなりません。企業での研究は遊びではないですし、会社の儲けに寄与することで給料を貰っているわけですから。
しかし、そこをきっちりと考えている研究者は決して多数派ではないと思います。日本人は年功序列的ですから、現場で実験の作業をしている若手は、ビジネスに関することは上の人が考えること、と思っているかもしれません。
特許というのは、研究からビジネスへとつなげていく過程で役に立つべきものですから、特許の仕事をしている人はここのところを「自分に関係ないこと」とは思わず、そこのところを補っていくくらいの気持ちが必要だと思うのですが。
もう一つ大きな問題として、知財の仕事をしている方で「ビジネスの目」を持っている方も残念ながら少ない、と思います。知財の人は特許の手続きだけやっていればいいんだ、という気持ちの方も多くおられるように思えてなりません(もちろん、そうでない方もたくさんおられますが)。
と、このように書いてみたものの、反対側には本当にそこまでビジネスでがんじがらめにする必要があるのか? という疑問はあります。
日本が技術という意味で多くの成果を挙げたのは、「純粋に研究に熱中する」気質の人が多いから、という気もしないではないですし。とはいえ、サラリーマンとしてみたときに、研究しているだけでいいのか、ということは基本的な問題です。
この先、日本が国際社会でのビジネスを重視して、技術の諸外国への漏出を防衛したい、というのであれば、こういうところはポイントになるのかもしれません。
そして、弁理士も「単に出願手続きをしていればいい」というのではなく、もう一歩考えなければならないのかもしれない、と思います。
投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL
2010年11月 5日 金曜日
知財コンサルタント
最近、弁理士会はこの知財コンサルタントということを推していて、こういう言葉を聞くようになりました。
正直なところ、私は弁理士が知財コンサルタントをやることは、相当難しいのではないか、と思っています。
仕事として、「出願等の代理人業務」と「コンサルタント業務」は相容れないところがあります。
「代理人業務」をやりつつ「コンサルタント業務」をやる、ということになったとき、自分のなかでスイッチの切り替えをしなければ、独善になったり、売上至上主義になったりして、収拾がつかなくなる気がします。
例えば、ある発明について、
「この件は出願したほうがいいですか」
という質問をされたとします。これは、特許事務所をやっていれば、時折される質問です。その仕事は、「コンサルタント的」です。
そのような場合に、
「出願すべきです!」
と言ったとき、自分の心の中に
「出願したら売り上げにつながるから、出願する方向にもっていきたい」
という気持ちが全くないと断言できますか。
また、反対に
「出願しても権利化される可能性は低いですよ」
と説明したときに、
「それでもいいから出願して下さい」
と言われる場合もあります。そんなときに、
「オレが出願しないほうがいい、と言っているのに出願するということは、オレの言うことを信用していないのか」
といった気持ちが生じない、と断言できますか?
また、依頼する企業側からしても、「本当にこの人の言うとおりにやって大丈夫なのか」と疑念を抱くことは当然発生するでしょう。そのときに、どこまで弁理士の意見と自分たちの意見の間でバランスを取れますか? 弁理士のいいなりにならずに自分たちの意志で知財行政を行って行けますか?
弁理士に正しいけれども耳の痛いことを言われたときに、怒らずに自分たちの企業風土を改革していこう、と考えられますか?
このように、独善的に自分の考えを押し付けすぎてしまったり、自分のなかの欲を感じてしまったり、という経験は、私もこれまでに何回もあり、そのたびに後で猛反省しています。
しかし、打ち合わせの場では熱くなっているので、うまく自分がコントロールできない場合もあります。
普通の出願における局面でさえ、このような難しさを感じているのに、コンサルタントとして企業の知財運営に関わるとなると、難しさは更に一段上がるでしょう。
弁理士も企業知財担当者も人間である以上、こういう人間臭い感情をゼロにすることは不可能です。それならば、出願業務を代行する代理人として割り切ったほうが、弁理士にとってもクライアント企業にとってもやりやすい形になるでしょう。
ということが現状であると思うのですが、反面、「知財コンサルタント」という響きに憧れを抱いてしまう自分がいるのも事実ではあります。
こういう「知財コンサルタント」のような考えを取り入れつつ、仕事をすることができたら、自分自身の特許の仕事のレベルも上げていけるのではないか、と思うこともあります。
そうは言いつつも、現実の厳しさを感じることも多く、思い通りにならないことばかりではありますが。
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2010年11月 4日 木曜日
事業仕分け
「特許特別会計」についての事業仕分けが10月29日に行われたそうですね。
私は傍聴に行っていませんし、その内容のすべてを確認したわけでもありません。しかし、ネットを見ると、どのような議論がされたかということについて、それなりに調べられます。
私は、本ブログでは政治的なことには触れないことにしているので、政治的にこのことがどうだこうだ、と書く気はありませんが、せっかくなので思ったことを少しだけ。
今まで事業仕分けと言われても、ピンと来なかったわけです。自分の知らない分野で議論されていることは、どっちが正しいようにも見えるわけです。そして、門外漢である私がどっちが正しそうに感じたかは、単なる印象であり、重要なことではありません。
しかし、特許に関することとなると、私も門外漢ではないですし、論じられている事項の実態についても少しは知識があるわけです。
そういう意識で事業仕分けを見ることができる、というのは初めてだし、ちょっと興味深いなと感じました。
が。
正直、切り込みが深いわけでもないし、論点も少なくて、あまり面白くなかったのではないか、というのが正直なところです(傍聴したわけでも、動画を見たわけでもないので、断言はしません。ただ、文章の書き起こしを読んで、是非動画を見たい、と思うほどではありませんでした)。
仕分け人の側にも、「変革」というほどの提案は少なかったし、「こうしたい」というビジョンが見えなかったのは残念な気がします。
コストを少しでも下げろとか、外郭団体に利権を持たせるなとかいう議論は、失礼な言い方をすれば「誰でも言えること」だし、「そんなことくらいしか、話すことなかったの?」という気もしないでもなかったです。そんなことは、将来の方向を示す指針になる提案でもないですし。
とはいえ、大した議論がなかったということは、現在の特許庁の運営が概ね問題なく進んでいるということの証かもしれないので、むしろ良いことかもしれません。
後は。
仕分け人というのも、大変だなぁと。仕分け人にとって、特許の分野のことなんて未知の世界でしょうし、ちょっとくらい勉強したところで、議論の対象になっていることの根本なんて分かりっこない、という気がしました。
そんななかで、事業の要否を決めようとしているわけですから、そりゃあ、無茶も生じるわな、と。
これまでの事業仕分けのごたごたも何となく納得できる気がしました。
あと、IPDL(特許庁電子図書館)の廃止、ということをここで言うのはどういうこと? と思いました。新検索システムが完成したらそちらに移行して、現在のシステムを廃止する、というだけのことらしいです。しかし、ネット上ではIPDLを廃止するというだけの話を誤解して驚いている人も見ました。
新システムをやるから旧システム廃止って、別に議論に乗せるほどの話でもないような気がするのは、私が政治の世界を知らないからなのでしょうか。
それとも、その点について、私が知らない論点がどこかにあったのでしょうか。ご存知の方は教えてください。
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