特許コラム

2010年11月30日 火曜日

特許法改正案(実施権、冒認出願の移転)

 今日は別のことでブログを書こうと思っていましたが、朝刊を見ると特許法改正の記事が出ていたので、予定を変更してこちらの記事のお話を。
 
「特許使用権 保護を強化
 特許庁が2011年の通常国会に提出する特許法改正案の全容が29日、明らかになった。
…(中略)…目玉は特許使用権(ライセンス)の保護強化。現在は特許庁に特許利用に関する当事者間の契約を登録していない企業が買収され、特許の所有権が移転すると、特許のユーザーは利用差し止めや損害賠償請求を起こされる可能性があった。
…(中略)…そこで、今回の改正案では特許の保有企業が経営破綻したり、買収されたりしても、ユーザーの使用権をそのまま認めるように変更する。
 特許横取りの救済措置も盛り込む。本来の発明者でない人や企業が出願して得た特許の名義を、訴訟を通じて真の発明者に変更できるようにする。
…(中略)…日本での特許出願は06年から4年連続で減少。ただ逆に世界では出願が増える傾向にあり、特許庁も企業が使いやすい制度を整えないと産業競争力が低下しかねないとの懸念を強めていた。」(2010年11月30日 日本経済新聞)
 
 というわけで、小出しに発表されてきた特許法改正もこれで全容が明らかになったようですね。
 あと、記事本文中で具体的には取り上げられなかったのですが、
「・特許の有効性の判断で、判決確定後は裁判所が優先する措置を導入」
とあります。これは、実務家は注意すべき点でしょう。
 
 これらの改正点は、妥当なものでしょう。前者は以前から問題視されていたところですし、後者も理論上、問題のあったところです。
 その意味では「意外」な改正はあまりないと言ってよいのではないでしょうか。いや、それはいいことなのですよ。妙な大改正をされるよりは、誰もが納得するような妥当な点で少しずつ改正していくやり方のほうが絶対に正しいでしょう。
 
 今回の一連の改正が「産業競争力を向上させるための改正」であるというのは事実でしょうし、それはいいことだとも思います。改正内容は妥当なものだと思いますし、特許庁も頑張っているのではないか、と思います。
 
 それよりも気になってしまったのは、日本経済新聞のこれら特許法改正の取り上げ方です。
 記事のなかでの論評の方法というか、改正の意味づけについての記事が妙なことになっているように思えてならないのですが、皆さんはどう思われますか。
 
 例えば、なぜ、今回の改正を出願件数と結び付けるのでしょうか。
 1面の記事だけでなく、3面の「きょうのことば」という欄でも説明が追加されているのですが、そこでは2000年から2009年までの日本、米国、中国、韓国、欧州の特許出願件数のグラフまで示されています。
 
 正直なところ、今回の改正は出願件数増加のためになされたものではないと思います。なのに、どうして無理やり「日本の出願件数減少」の話に結び付ける必要があるのでしょうか。(「特許庁も企業が使いやすい制度を整えないと産業競争力が低下しかねないとの懸念を強めていた」とありますが、別に特許庁も「特許出願件数増加」とは言っていないわけです)
 
 以前の日本経済新聞の記事について、
ということを本ブログで書きました。
 
 そのときの日経の記事でも、唐突に、
「特許戦略で海外に後れを取り、日本の競争力を阻害する一因にもなっている」
ということ書いていたことに、「それは本当か?」と思いました。
日本が特許戦略で海外に後れを取っているなんて、一切検証されていないことなのに、「後れを取り」と記事中で断言しているのが、まずおかしいと思います。更に、それが「日本の競争力を阻害する一因」になっているなんて、誰が検証したのでしょうか。
 
 出願件数が減っていることは、色々と背景があることです。それには特許庁の方針や裁判所の判例の流れ等、色々な事情がからんできます。そういう背景を無視して、「日本の出願件数が減っている」ということを「特許戦略の後れ」「日本の産業競争力低下」の象徴のように書くのは如何なものでしょうか。
 
 私たち弁理士にとっては日本の特許出願件数が増えてくれたほうが、仕事のパイが増加するので、有難いことではあります。しかし、弁理士がそんな視野の狭いことを考えていては、それこそ日本もお先真っ暗です。
 
このへんの記事内容については、最近、「日本経済新聞、もうちょっとしっかりしてくれ~」と思ってしまいます。

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2010年11月29日 月曜日

「<反>知的独占」について


 先日、書店で見かけたとある本を買い、このブログで取り上げようと思いました。
 その本は、「<反>知的独占」 (ミケーレ・ボルドリン/デヴィッド・K・レヴァイン著 山形浩生/守岡桜訳 NTT出版;2010年10月29日;原著2008年)です。
 
 が、結局、この本を最後まできちんと読みきることはできませんでした。
 
 この本は、知財のことを経済学的観点から書いた本です。こういう本について本ブログ中で言及するのなら、安易な「感想」は書けないな、と読んでいる途中から思い始めました。
 知財に関することを書いた本についてブログに書くのなら、やはり「プロ」としての視点でしっかりした批評を書かなければ、と自分で勝手に思ってしまったのです。今まで、このブログでも本について触れたことはありましたが、それは所詮「感想」に過ぎないものでした。
 その内容を細部までしっかりと読んで、その内容について論理的に論評するようなことはしていません。
 しかし、今回、「<反>知的独占」の内容をブログで取り上げるのなら、「感想」レベルではない「論評」レベルで取り上げなければ、と思いました。
 
 そう思い始めると、なんだか本を読むのが妙に重くなってしまって、読んでいて楽しくなくなってしまいました。
 そもそもが、経済学の本なので、論理構成が私に馴染みのないものであるということもあり、私自身がのめりこめなくもなってしまいました。
 
「知的財産制度がないほうが、より効率的な産業の発展が見込まれる」
というのがこの本の趣旨であり、それは最初のほうで示されているわけです。
 
 それが真実かどうかは、最終的には知的財産権制度のない国家を作って試してみなければ分からないことです。
しかし、(当然のことながら)著者はその「実験」をやってこの本を書いたわけではありません。この本の著者はその結論をサポートする事実を多く挙げて、知的財産の問題点を指摘します。
 それは、一つの説として検討の余地があるとは思います。が、だからといって、今すぐに日本の知財権制度をすべて廃止する、ということにはならないわけです。現在、知的財産権が存在している世の中で、それなりの経済は築かれているわけですから。
 
 そこのところ、経済学というのは難しい学問だなと思いました。そして、これまで世の中で「天才」と言われた経済学者が作った理論が破綻する、ということ起こった理由はちょっと分かったような気がしました。
 実験せずに組み立てた理論はあくまでも「理論」でしかないわけです。
 で、それを現実に適用してみることが「実験」であり、やってみて初めてその理論の問題点が分かるわけです。が、「実験すると理屈どおりに行かない場合もある」ってことは至極当然のことです。
 
 こういった意味で、理系のなかでも「まず実験ありき」の考えが特に強い有機化学をやっていた私からすると、なかなか馴染めないです。理系でも理論物理や数学をやっておられた方なら、すんなりと馴染めるのではないか、という気もします。
 その辺り、私がこの本を「論評」できるレベルで読めなかったという理由です。大変残念に思います。
 
 「実験で確認できない経済学なんて学問として意味がない」なんてことを言ってしまうと、それは経済学を知らない人間の極論になってしまうわけで、そういうことは申し上げません。
それよりも、経済学をきちんと勉強している方が、この本を読まれたらどう感じるのか聞いてみたいと思いました。
 

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2010年11月26日 金曜日

最近の知財ニュース


 最近、あれこれと訴訟関連のニュースが出ていますね。
 主だったところでは、「どん兵衛」事件
(リンク切れの場合はご了承下さい)
とか、モンシュシュvsゴンチャロフ
(リンク切れの場合はご了承下さい)
といった、商標事件が目立っています。
 
 が、私は、東ソーvsミヨシ油脂の特許訴訟事件で、12億の損害賠償を認める判決が出た、という件に一番興味をひかれました。
 
「ミヨシ油脂に12億円賠償命じる=東ソーの特許侵害で、生産禁止も-東京地裁
 ミヨシ油脂(東京都葛飾区、東証1部上場)が製造・販売する重金属固定化処理剤が、特許権を侵害しているとして、化学製品大手の東ソー(港区、同)が生産差し止めや27億円余の損害賠償を求めた訴訟の判決が18日、東京地裁であった。大鷹一郎裁判長は特許侵害を認め、ミヨシ油脂に生産禁止と約11億9200万円の支払いなどを命じた。
 ミヨシ油脂側は「東ソーの特許は出願時点で既に公表されていた発明と同じで、無効だ」などと主張したが、大鷹裁判長は「公表済みだった発明と同一とはいえない」と退けた。
 問題となったのは、ごみ焼却施設で飛散する灰の処理に使われる製品。判決などによると、東ソーが1995年に特許出願し、2003年に登録された技術が使われている。ミヨシ油脂は01年ごろ販売を始め、東ソーの製品と競合していた。
 ミヨシ油脂法務・広報室の話 承服し難い。控訴して当社の正当性を主張する。(2010/11/18-20:08)」(時事ドットコム)
 
(リンク切れの場合はご了承下さい)
 
 化学系の事件ですし、12億とはかなり巨額の損害賠償事件です。これは面白そうと思って調べたところ、まだ判決文が公開されていないようで、残念ながら詳細は分かりません。判決文が公開されれば、是非内容を読んでみようと思っています。
 
 が、その前に、とりあえずどんな特許なのか登録公報だけでも取り寄せてみようと思い、記事に該当すると思われる特許を読んでみたのですが……。
 
 何と申しましょうか。
 非常にあっさりとした明細書です。発明の内容は基本的に単純であることから、それで過不足なく記載されているのでしょうが、あまりこねくり回した形跡のない明細書です。
 また外国出願なども行っていないようで(当方では見つけられませんでした)、決して、非常に力を入れて特許出願をした案件ではないように見えます。
 少なくとも、この特許で訴訟を行って12億円が得られるかもしれない、と出願時点から考えていたとは思えません。
 
 しかし、そういうものなんですよね。私も訴訟までは行かなくとも、もめた特許というものを見てきましたが、出願時から「これは重要だ」と思っていたような特許の場合と、そこまで重要と思っていなかったような特許の場合とで、半々ぐらいであるような気がします。
 
 特許にあまり慣れておられない方は、一度、この事件の対象となった特許(特許第3391173号)を読んでみられてもいいと思います。
 技術内容としての意義が高いことが前提とはいえ、このようなあっさりした明細書でも大きな訴訟にまで行くことがある、ということは認識されてもいいのではないでしょうか。

 この件については、本ブログでももう少し詳しく触れたいと思っています。

(追記 以下の記事で、本事件について詳細に検討していきます)

重金属固定化処理剤事件
  

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2010年11月22日 月曜日

長谷川曉司先生の講演会

 先週金曜日に弁理士の長谷川曉司先生の講演が弁理士会近畿支部であったので、聞きに行ってきました。非常に面白く、ためになるお話でした。
 長谷川先生って誰? という方は、こちらの記事をご参照下さい。
 
また、著書としては、「御社の特許戦略がダメな理由」(長谷川暁司著、中経出版)があります。こちらの本は非常に面白いので、お勧めです。
 
 当日、個々のことでどんなことをおっしゃったか、ということは書きません。それを知りたいということであれば、実際に先生の講演を聴きに行かれたり、著書を読んだりして下さい。
 それに、私にとって長谷川先生のお話で一番面白くためになったのは、個々のお話というより、全体を貫いている「思想」のようなものだったと思います。
 
 一番印象に残ったのは、色々なことについて常に論理的であろうとするその姿勢です。本当に見習わなければならないことだ、と思いました。
例えば、講演のお話のなかで、何回も「定義」を考えてください、ということをおっしゃっていました。
 先生の講演のなかで、「特許戦略」というのは何か? それを定義するならどういうことなのか? という問いかけがありました。
 
 こういうことを問われると、案外答えられないものです。しかし、「特許戦略とは何か」という定義がなされないままに、あちこちで「特許戦略」についての議論はされているわけです。
 定義もせずそんな議論をすることに果たして意味はあるのでしょうか。
 
 そして、そういうことについては、私もこれからきっちりしていかないといけないな、と改めて思いました。私自身、このブログでもずいぶんと「論理性」というものにこだわってきましたが、もっと色々考えていかなければならないな、とも思いました。

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2010年11月19日 金曜日

特許庁面接(4)


以前の記事はこちら。
 
 ポイント⑤
 事前打ち合わせはほどほどに
 
 これは難しいところで、意見も分かれると思います。
 しかし、面接において、事前打ち合わせでのシミュレーションはある程度必要ですが、やりすぎるといけない、と思います。これは完全に私の意見なので、「そうではない、完璧な打ち合わせが必要だ」とおっしゃる方がおられたら、それを否定する気は毛頭ありません。
 
 面接というのは審査官とのやり取りですから、審査官が何を言ってくるのか想定しておいて、「こう聞かれたらこう応える」ということは考えておいたほうが、面接のときに慌てなくてすみます。
 何を聞かれても答えられないのであれば、面接に行った意味がないわけですから、ある程度の準備は必要でしょう。
 
 しかし、面接は普通、一人だけで行くわけではありません。よくあるパターンとしては、事務所弁理士1名、企業知財1名、発明者1名というものがあります。
 
 このような場合に、事前にいくら打ち合わせしたところで、全員の意志を完璧に統一することはできません。技術の理解度、審査官の主張の理解度にはばらつきがあって、それぞれの思いで、打ち合わせに行くことになります。
 
 議論というのは、その場の空気とか話の流れというものがあります。事前に「これを言う」と決めていても、当日の面接の流れ上、そんなことを言う必要はない、という状況になることはあります。
 
 でも、準備しすぎると、話の流れに逆らってでも、準備したことを言わざるを得なくなることがあります。
 一人で行くのなら、それを避けやすいですが、3人で行っていたりすると、事前打ち合わせの内容によっては、「それを言わないと、事前打ち合わせの計画が全部崩壊する」という事態にも陥りかねません。
 
 そうではないにしても、面接当日に事務所弁理士が打ち合わせで全然言っていなかったことを突然話し始めたら、他の人は戸惑うでしょう。「あの事前打ち合わせは何だったのか?」という気分にもなりませんか?
 
 私は、「当日にこれを言おう」と思って準備していたことであっても、話の流れに逆らう形になるのなら、話の流れに乗っていって、事前準備していたことと全然違うことを言っているときはしょっちゅうあります。
 そのかわり、事前打ち合わせをきっちりとやりすぎないようにします。
 
 非常に重要な特許で、しかも拒絶理由が厳しいときなどは、力が入りすぎて綿密に事前打ち合わせをしてしまいがちですが、当日に柔軟で臨機応変な対応をしようとするなら、事前打ち合わせを過剰にすることは、かえって悪い方向に向かう場合もあるように思います。
 
 それに、「これは事前打ち合わせの内容と全然違うことを審査官は思っているな」と思ったら、正直にそれを伝えて「もう一度検討します」と言えばいいだけのことです。
 そういう意味では、面接は情報収集の場、と考えるべきということでもあります。
 
 日本人というのは潔癖すぎる傾向がありますし、また、若い方等は気合が入りすぎて、考えすぎることもあるように思います。
 しかし、努力が必ずしもベストの結果につながるわけではありません。ちょうどいい頃合いを見計らうということも考えるべきではないでしょうか。

特許庁面接(5)
に続きます。
 

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

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