特許コラム

2010年7月12日 月曜日

中小企業の知財戦略

 中小企業の知財戦略について調べてみると、特許庁ウェブサイト中にかなり充実した内容の資料が掲載されています。
 こちら
の資料等は、非常に分かりやすく、中小企業の方が知財を経営に取り入れていくにはどうすればよいか、説明されているように思います。
 
という記事だけで終わるのは芸がないので、私なりに思うことなども、ちらほらと。
 
①1件の中身を濃く。
大企業の特許出願を見ていると、1件の中身が薄い案件も多々みられます。大企業であれば戦略上このようなことをやるのですが、中小企業は資本力が弱いですからこのようなことはお勧めしません。
いかに1件の中身を濃くするかが重要です。
 
②特許出願は社外へのアピール
中小企業の場合は、いい技術を開発したときそのことを社外にアピールする必要があります。特許公報は、関連するほとんどの会社が読んでいますから、特許が公開されたことは技術力をアピールする力があります。
 
③海外出願は費用対効果を考えて
 海外出願は非常にお金がかかります。しかし、グローバル化が進む昨今、海外出願をしておくことのメリットもまた大きいものがあります。
 費用の概算を計算したうえで、外国出願の費用は回収できる、と判断した場合はPCTによるお外国出願をお勧めします。
 
④特許は自分の実施確保ではなく、他社の実施を邪魔するため
 大企業の場合は防衛出願を大量に出願して自社の実施範囲を確保することがよく行われます。
 しかし、中小企業の場合はこのようなことに貴重な資本を投入することは好ましいことではありません。
 中小企業の場合は、あくまでも「他社が実施できないようにする」ことを目標として出願することが必要であると思います。
 
⑤特許を金に変える
 技術開発をしてその内容で事業を行ない利益を得るのが理想ではありますが、短期間で勝負が決まるような技術、自ら全部実施するには、乗り越えなければならないハードルが高い技術等の場合は、技術自体を売却してしまうことがむしろ好ましい場合もあります。
 このような技術売却の場合は、特許が重要になります。
 また、最近、知財を担保とした融資等もありますので、知財を資金に変えていくという視点も重要になります。
 
 というあたりでしょうか。
 しかし、この程度のことは、基本の基本にすぎません。
 現実に作業を進めて行く上では、色々と戦略を立て、考えないことがたくさんあります。そんなもっと「ぶっちゃけた」話も機会があれば、していきたいと思っています。

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

2010年7月 8日 木曜日

非侵害の証明

 私が会社の特許部で働いていたときの体験談です。
 
 あるとき、競合他社から話したいことがある、との連絡がありました。
 その業界において、私が勤めていた会社が2位、連絡をしてきたのは業界トップの会社でした。面倒なので、私が勤めていた会社をA社、業界トップの会社をB社と書きます。
 
 そして、訪れたB社の方は、「貴社の製品Xは、B社の特許××××××という特許に抵触しているのではないか」と仰りました。
 B社は分析結果が示されていて、侵害との結論に至った理由も詳細に示されています。
 すぐに訴訟を、という話ではなかったのですが、とりあえず見解を下さい、ということでした。
 
 そこで技術部門に連絡をして確認したところ、「非侵害」との回答でした。
 問題になる特許は「成分A,成分B,成分C,成分D及び成分Eを含む組成物」という発明です。そして、A社の製品XはそのうちE成分を含まず、E´成分を含んでいました。
 E成分とE´成分とは別の成分であるし、均等が適用される余地も無い根本的な違いがある成分でした。
 ところが、それで良かった、とはならないのが難しいところです。
 
 こちらは「E成分を含みません」と回答したのですが、先方は納得しません。「こちらの分析結果からみると、E成分を含んでいるはずだ」と言います。
何しろ、製品Xは上述した成分A~Eだけではなく、その他にも多くの成分を含んでいる複雑な混合物です。それをちゃんと分析してE成分が入っているかどうか、立証することは簡単ではありません。
 
 B社の側は「E成分が入っていないのなら、なぜこのような分析結果になるのか」と詰め寄ります。しかし、A社側としては成分Eを使っていないことは知っているけれど、商品Xの分析結果がそのようになるのがなぜか、と言われてもそんなことは分からないのです。せいぜいが、「添加した他の成分が影響して、おかしな結果が出るのではないか」と反論する程度です。
 A社としてはA社なりの別の方法での分析を行って、E成分は入っていません、と主張するのですが、B社は納得しません。
 
 こうなってしまうと、水かけ論になります。私はこの交渉の途中でA社を退社してしまったので、その後どのようにして話が落ち着いたのかは知りません。ただ、訴訟にまではならなかったようなので、どこかでB社の方に納得してもらったのだと思います。
 
 ここのところも化学特許の難しさかもしれません。
 
 A社としては自分たちの実施内容から「非侵害」であることを分かっているのですが、「じゃあ、E成分が入っていないことを証明しろ」と言われると、その証明は決して容易ではありません。
 E成分が入っていないのにE成分が入っているという結果が出た、ということはB社の分析方法が妥当でなかった、ということになるわけですが、では、その分析方法のどこがいけないのか、ということになると誰にも分かりません。何しろ、その分析方法も、素人が一見した範囲では、理にかなった測定方法なわけです。
 
 B社の側からしても、最初に言い出した手前、事業部が納得するような回答をA社から引き出さない限り、簡単に引き下がるわけにもいきません。
 おそらくB社としてもA社の困惑には気が付いていたでしょうが、お互いに落とし所をどこにすればよいのか、困ったのが実際だと思います。
 
 化学特許の「分析」の問題の難しさを実感した事件でした。
 と同時に、「侵害をしていない」ときでも、特許の事件に巻き込まれてしまうことはある、ということを教えてくれた事件でもありました。

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

2010年7月 5日 月曜日

特許は必要悪??

私も、15年間、特許の仕事をしていくなかで、色々な方とお話をする機会があり、知財に関して色々な言葉を聞いてきました。
そのなかで一番印象に残っている言葉がこれです。
「結局、特許ってのは世の中にとって必要悪だから」
某社知財部の方の発言でした。
「必要悪」というのは、過激な言葉です。
しかし、ある意味、真実をついているのかもしれません。「必要悪」とまで言うと言いすぎかもしれないとも思うのですが。
 
私はとりあえず「研究開発を主体とする会社にとっての保険みたいなもの」と少し薄めて考えるようにしているのですが。
 
その方曰く、「だって、特許制度なんてものがなくても世の中がうまく回っていくのなら、特許制度なんてないほうがいいんだから。それじゃあうまくいかないから、ってことで特許制度がある、ってことでしょう」
というようなことでした(正確には覚えていません。結構昔のことなので)
確かに、世の中のすべての人が紳士的で、人が発明したことを安易に真似することはせず、パクリというものを誰もしないとしたら、特許制度なんていらないでしょう。
まあ、そこまで行ってしまうと、世の中の進歩は大幅に遅れ、活気のない世の中になるでしょうが。
それを指して「必要悪」とおっしゃられるのは非常に興味深い言葉に思いました。
 
とはいえ、世の中のすべての人間が清廉潔白だったことなんて、有史以来一度もないわけですから、「必要悪」とまで言ってしまうこともないような気がします。
それに、誰かが思いついたことを真似することで技術が進歩する面があるわけで、「真似」イコール「悪」とも言い切れないわけです。
 
で、私が思うのは「特許は保険みたいなもの」ということです。
 
特許を取らなくても商売はできます。
しかし、特許を取っていない状態で商売をしたとき、儲かりだした頃に真似する会社が出てくる、ということは非常に多いです。
真似されると、後発のほうが有利です。研究投資に金がかかっていませんから。そこでコスト競争に巻き込まれてしまうと、先発のほうが不利という状況になってしまいます。
それを避けるために、特許化を図るわけです。つまり、「他社」を攻めるための武器として特許はあるわけです。
 
そういう「将来、真似する人」を防ぐために、研究開発がまだまだ初期段階にある時点で特許出願をしないといけないわけです。
企業の研究開発の多くは、初めのうちは「海のものとも山のものともつかない」状態です。その時点で、特許出願しなければならないわけです。
その特許が本当に役に立つのか、将来、真似する人が現れるほど成功するかどうかも分からないうちから、特許対策は始まっているのです。
 
こう書くと、「保険」と書いた気持ちが少しは分かってもらえるでしょうか。
その将来どうなるか全く分からないものについて、対策を練っておく、という点で保険のような面がある、ということです。
そして、「保険」と同じことで、やらないわけに行かないですし、かといって保険にばかり時間や金をかけていても、実際のビジネスにエネルギーが回らなくなってしまいます。
そこのところを、どの程度配分していくか、それが経営者の「知財戦略」にかかってくる、と言えるのかもしれません。

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2010年7月 5日 月曜日

審査請求料値下げへ

「特許審査料値下げへ
1~3割で検討 減免対象拡大も」(2010年7月4日 日本経済新聞朝刊)
「特許庁は、特許の要件を満たすかどうかの審査を求める際に個人や企業が納める審査請求料を引き下げる方針を固めた。電子化などで審査の作業にかかる費用が減っていることに加え、海外と比べて割高とされる点を見直す狙い。出願料や維持料は現状のままとする。
5日に開く産業構造審議会(経済産業省の諮問機関)の小委員会で審査請求料を下げる方向性を示す。具体的な下げ幅は、現在の平均約20万円から1~3割程度引き下げる方向で検討を続ける。中小企業向けの減免制度の対象拡大についても議論する。
・・・(以下略)」
 
というわけで、審査請求料の値下げが検討されているようです。
日本経済新聞に掲載された記事なので、ご覧になった方も多いでしょう。
これは朗報ですね。どのような形での値下げになるのか、もっと詳しい情報が入らなければ、まだ何とも言えないところもありますので、しばらくは具体的な情報を待ちましょう。

 (追記 平成23年1月の新聞記事もご参照下さい)
審査請求料金の引き下げの件

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2010年7月 2日 金曜日

ブログのテーマ等

ブログを開始してほぼ1月となりました。
おかげさまで、と申しましょうか、徐々にではありますがアクセス数が増えてきており、ありがとうございます。

 ところで、私は特許業界に長くどっぷりと漬かってきた人間なので、特に特許業界以外の人が「特許の何が分からないのか」が、あまりピンとこない部分もあります。
ですから、このブログでこんなネタを取り上げてほしい等の要望があれば、コメントでもメールででもご遠慮なく連絡下さい。
 
ちょっとでも皆さんの役に立つようなネタを取り上げられれば、と思っています。
宜しくお願いします。

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

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