特許コラム
2011年5月26日 木曜日
「資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言」
「資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言」(中谷巌著 集英社文庫 2011年)を読んでいます。
まだ読み終わっていないのですが、半分以上を読んで「私が一番読みたかったところ」を読んでしまったので、少しネタにさせて戴きます。
何かというと、グローバル資本主義者の推進者であった著者がなぜ、グローバル資本主義批判の本を書くに至ったのか、という過程こそが読みたかったところで、それは、4章までのところである程度書かれている、と思ったので、4章まで読み終わった今の時点で色々と感想を。
まず思ったのは、かつての中谷巌氏というのは、勉強のできる人だったんだな、ということです。それを褒め言葉として言うわけではないです。
「勉強ができる人」というのは、教えられたことの意味を深く考えずに頭の中に入れることができる人、という面があると思います。
正直、若い頃の私自身にも、そういう部分があったのでその感覚が理解できます。要するに、自分で色々なことを考えるのではなく、既存の学問を自分のなかに移植しているだけで、勉強したことの「意味」を深く考えることはない、という。
だから、大学卒業後に会社を辞めてアメリカに行かれた若い中谷氏が英米流の経済学の考え方に「かぶれた」過程のことは、何となく「分かる」気がするんですよね。
私は経済に関しては、まったくの素人で「経済学」をきちんと勉強したことは一度もなくて、社会で色々経験してから「少しでも経済の本でも読んでみるか」とこういう本を読んでいるので、その辺で、中谷氏とはものすごく違った角度で「経済学」というものを見ているという気がします。
それだけに、
「だが、はたして本当に経済学の理論体系は文字どおり信じてよいのであろうか。(中略)近代経済理論の「前提条件」を疑ってみる必要があると考えるようになった。いくら、ロジックが正しくても、その前提に無理があるなら、そこから導かれる結論の有用性はなくなるからである」(116頁)
という一節などを読むと、中谷氏のような頭のいい人が「そんなことに長く気付かないことが逆に不思議」でした。でもそれは、「勉強ができる人」がやってしまいがちな「失敗」なのかもしれない、とも思いました。
でも、これだけの地位を築かれた方が、こういう立場のなかでこういう本を書かれた、ということに私は「勇気」tと「真摯さ」を感じました。
この本は、そうやって「英米流の近代経済理論」にどっぷり漬かった経験を持つ中谷氏であるからこそ書けた本だと思いますし、読んで非常に勉強になりました。
そして、以前本ブログで取り上げたエラリー・クイーンに私が馴染めない理由のところで書かせていただいた、
「ある論理から導かれた結論が現実と一致しないのなら、その理論か、あるいはその理論を導く上での前提の設定に間違いがあるはず、と私は思います。で、エラリー・クイーンの「チャイナ・オレンジの秘密」は、完全にその状態に陥っている小説、という気がしたのでした。」
という言葉を、なぜ本書を読んでいるときに思いついたのか、ということも少しお分かり戴けるのではないでしょうか。
投稿者 八木国際特許事務所