特許コラム
2011年5月25日 水曜日
2010年出願件数及び登録件数について
「2010年出願件数及び登録件数について」というタイトルで、データが特許庁ホームページ上で公開されています。
特許については、出願件数は減っていますが、登録件数は増えているという状況ですね。出願件数は2006年から毎年減少しており、2000年との対比では2割くらい減っていることになります。
出願件数が減ったから問題、というのは私があまり好きでない考え方です。「数字」にすると、なんでも意味があるように見えますが、それは単なる錯覚に過ぎない場合が多いです。
きっと、最近の新聞であれば、このデータに基づいて、
「日本の特許出願件数が減少→日本の産業競争力が低下」
という論理で記事にするところでしょう。
でも、本当にそうなのでしょうか。
「特許出願の件数が減った」原因なんてものは、ものすごく色々な要素が関わるわけですから、何の根拠もなく突然「産業競争力が低下」という結論を導くのは、論理性に欠ける考えでしょう。
もっと論理的に色々な可能性も考慮すべきではないでしょうか。
例えば、海外の出願件数を増やして、そちらに注力するようになったから、日本の出願は「そこそこ」で留めているという可能性はないでしょうか。
現在、日本の訴訟件数は減少する一方ですが、反面、海外では訴訟問題は増えています。国際企業であるなら、このような状況下で日本での特許出願を増やそうとするはずがないでしょう。
また、近年の日本では業界再編が進んでいます。例を挙げると、鉄鋼高炉大手であれば、新日鉄、NKK、川崎製鉄、住友金属、神戸製鋼と5社あったものが、新日鉄+住友金属(これはまだ予定ですが)、JFE、神戸製鋼の3グループに再編されました。
5社時代は、5社それぞれが別個に研究を行い、特許出願を行っていたはずです。でも、合併が起こり、例えば、NKKと川崎製鉄が合併すれば、研究も再編されるでしょう。再編というのは、重複した研究テーマを集約していくことが行われるわけです。
そうであるなら、それ自体が全体としては特許出願件数の減少につながるでしょう。
また、ここ数年、特許庁がとってきた政策は、「特許出願を増やす」ことに主眼を置いたものではなく、むしろ「いかにして特許出願を減らすか」に置かれていたように思います。
実際、一時期、ノウハウとして隠しておくべきことまで何でも特許出願することで、海外に技術知識が流出した面も否めません。そのような「ノウハウ流出の抑制」は特許庁の一つの政策方針であったわけですから、それをやれば出願件数が減るのは当然でしょう。
こういった多くの要素を組み合わせて「特許出願件数の減少」を解釈することが必要です。
こう書いたからといって、
「特許出願件数が減少してもまったく問題はない」
と言いたいわけではありません。
そうではなくて、「特許出願件数が減った」ことから何か分析をしようとするのなら、「なぜ減ったのか」という原因についてきちんとした分析を行うことが重要ではないか、と言いたいわけです。
そのうえで、その状況判断に基づいて、今後の知財行政を考える、という姿勢がいるのではないかなぁ、と考えているということです。
そのうえで、その状況判断に基づいて、今後の知財行政を考える、という姿勢がいるのではないかなぁ、と考えているということです。
要は「特許出願件数の減少=悪」という反射的な考え方はよくないのではないか、ということが言いたいわけです。
とはいえ、「出願件数の減少」という事象をどのように解釈するか、ということをきちんと分析する人は誰もいない、という問題は別のところにありますけどね。
私だって時間があればやりたい気はしますが、さすがに事務所を経営しながら、そこまでの分析をやる時間はないです。誰かやってくれませんか? 何か面白いことが見つかりそうな気もするのですが。
投稿者 八木国際特許事務所