特許コラム
2011年4月25日 月曜日
船頭多くして、船、山に登る
社会人として働いていると、色々な諺について非常に実感を持って共感することが多くなります。
この諺も、私が共感することが多いものです。
この前、知人の弁理士数人と飲んでいるときに、ある弁理士の口からもこの諺が出ました。そのときの話が、私もかつて非常に強く感じたことと同じだったので、今日はそのことをネタに。
日本は「和」を大切にする社会で、だから話し合いでの承認がなければならず、決定が遅い、というような話はあちこちで語られることです。それが悪いほうに作用すると、この諺の状況になりやすいわけです。
そして、特許訴訟の場も、この「船頭多くして……」という状況になりがちです。
特許訴訟の場合、社外から弁護士、弁理士、社内でも特許部担当、技術の責任者、営業担当等の立場の違う人たちが集まることになり、どうかすると、十人くらいの人間が関係することになったりします。
そこで問題になるのが、
「最終的な方向性を決める責任者は誰なのか」
がはっきりしないまま、話し合いが進むことが多い、ということです。
社内の事業部会議等であれば、だいたい、その場のトップは決まっているわけで、もめたときは特定の人が決定権を持っていることが多いでしょう。
しかし、知財訴訟の話し合いでは「誰が決定するのか」が不明瞭なままで会議が進むことが多いように思います。
で、各人がそれぞれ好き好きに言いたいことを言って、話をまとめようとしないので、長時間会議をしても混乱するだけ、というのがありがちなことです。
何しろ、弁護士と研究者等は、特許事件に対する考え方の根本が違っていますから、話をしていても、論点がかみ合わなくなりがちです。
だからといって、誰かが仕切るのも難しいものがあります。
例えば、誰か有能な人がガンガンに仕切って、全体の話もまとめて方向性をきちんと誘導して、ということをしたとします。
でも、裁判は水ものですから、そうやっても負けるときは負けることになります。
そうなると、そこで誰かが、
「負けたのは××(仕切っていた人)のせいだ」
ということを言い出して、責任を押し付けるような流れになってしまいます。
実際、訴訟を仕切っていたのがその人だったのなら、責任を問われると何も言えなくなります。
仕切っていたのが社内の人だったりすると、なおさら問題です。社外の弁護士や弁理士は責任取らされたところで、逃げ場がありますが、社内にいると逃げ場がないから大変です。
それが分かっているから、皆、「船頭多くして、船、山に登る」状態になっていることを知りつつ、「自分が仕切る」ということをやらないのです。
実際、日本の大企業というのは「責任を回避する」ことに長けた人が偉くなる傾向にありますからね。そりゃあ、「特許訴訟の話し合いを仕切る」なんてこと、誰もやらないでしょう。
とはいえ、本当に訴訟で勝ちたいのなら、代理人側ではなく、会社側それも事業部サイドの人間が誰か仕切ってくれないと、うまくいかないのも事実です。誰か覚悟を決めて下さい、という話でもあるのですが。
このような状況は訴訟をまずくする状況なので、如何にしてこれを避けるかは重要なポイントだと思います。「知財訴訟」をうまくやっていきたいと思うのなら、とりあえず「関わる人の数をできるだけ減らすこと」から始めるのがいいかもしれません。これまた難しいことですが。
投稿者 八木国際特許事務所