特許コラム
2011年1月 6日 木曜日
特許法における「利用」
今日は珍しく、特許法のお勉強の話です。
というのも。
私が特許の仕事に移ったばかりの頃、私の教育係であった先輩が、
「この発明の「利用」のところは、営業の人や研究の人に何回説明してもわかってもらえない。誤解している人が非常に多い」
とおっしゃっていました。
そして、私も実際に仕事をしていくうちに、「確かにそのとおりだ」と思う局面が非常に多くありました。結局、十五年前と今とではここのところの認知度はあまり変わっていないと思います。
だからといって、なぜ急にここのところをブログで書こうと思ったか、というと、年末年始に東ソーvsミヨシ油脂の判決文を読んでいるとここのところが関係している、と思ったからです。
そこの詳しい話は、今後のブログに譲るとして。まずは、利用の話です。
まず、根本的にある誤解として、
「特許を取れば、自分はその発明を自由に実施できる」
という誤解があります。本当にここを誤解している人が非常に多いです。
いいですか。ここは声を大にしていいますが、これは間違いです。特許を取ったということは、その発明を実施できるということではありません。
特許を取ったということは、その発明を「他の人が実施できない」という意味です。特許を取った人が実施していいかどうかは別の問題です。
納得行かない人も多いでしょう。
でも、例を挙げて説明すると案外簡単なことなのです。
例えば、世の中に「腕時計」というものが全く存在していなかったときに、Aさんが「腕時計」を発明して特許を取ったとします。そして、そのAさんの腕時計をみたBさんが日付表示機能のついた腕時計を発明したとしましょう。
その日付表示機能のついた腕時計は、それまで世の中になかったものなら、Bさんは特許を取ることができます。
でも、Bさんが「日付表示機能つきの腕時計」を製造したら、腕時計を作ったのだからAさんの特許を侵害したことになるでしょう? このような場合には、自分で特許をとった発明でも実施することはできなくなります。これを法律用語で「利用」といいます。
じゃあBさんは特許を取った意味がないじゃないか、とおっしゃるかもしれません。しかし、「日付表示機能つきの腕時計」はAさんも製造することはできないのです。
だから、Aさんが腕時計に日付表示機能をつけたい、と思ったら、Bさんと交渉をしなければならなくなる、ということです。Bさんが特許を取ったメリットはそこにあるのです。
化学の分野では、そこに「選択発明」という概念が加わることで、非常に複雑な状況が生まれやすくなります。
と書いたところで、長くなりましたので、選択発明についてはまた明日。
投稿者 八木国際特許事務所