特許コラム
2010年12月 1日 水曜日
特許庁面接(5)
以前の記事はこちら。
ポイント⑥ 細々した言い訳はしない
言い換えると、できるだけ話を単純化して自信を持って話す、とも言えます。
一つ例を挙げてみましょうか。
(例)
本願発明
「X処理を施した基材M上に、樹脂Aを含有するコーティング剤を塗布する工程を有する基材Mの処理方法」
拒絶理由
「X処理を施した基材Mを樹脂Bを含有するコーティング剤で塗布することは引用文献1に記載されている。樹脂Aは、樹脂Bよりも耐熱性に優れた樹脂であることが当業者に周知であるから(例えば、引用文献2,3等)、耐熱性の向上を目的として樹脂Bを樹脂Aに置換する程度のことは当業者の通常の創作の範囲である」
そして、樹脂Bを樹脂Aに置換することは当業者に容易ではない、として反論する場合を考えましょうか。
ここで、ついやってしまうのが、隙のない反論をしようとするあまり、ものすごく複雑で、聞き手からすれば何のことか分からない論理を作ってしまう、ということです。
上の例に書いたようなケースであっても、基材Mは先行文献と本願とで微妙に違う、X処理でも処理条件が微妙に違う、「樹脂A」でも分子量が違うと性質が変わる、組成物が水系と溶剤系で性質が違う、等と色々文句を言いたいところが多岐にわたることがあるわけです。
考慮して欲しいことがたくさんあるからといって、それを全部審査官に伝えることは無理です。30分から1時間程度の短い時間で、何もかも理解してもらうのは、土台無理なのです。
ですから、一番重要なポイント1つ(かせいぜい2つ)に論点を絞って、そこを中心に話すべきでしょう。
上の論理で言えば、例えば、樹脂Aは水性のコーティング剤であるが引用文献では溶剤系のコーティング剤しか記載されていなくて、そこから反論することに決めたとしましょうか。
一旦、そこから反論すると判断したのなら、反論はそこに絞るべきだと思います。他の話をするときも、この中心の反論点からの派生事項として話すべき、ということでもあります。
例えば、「本願では水性コーティングにしたから、樹脂Aは分子量が特殊な範囲になっている」というような言い方で、話を一体化するようにすべきです。
ついつい、全体をまとめずに「分子量も違う」「前処理の条件が微妙に先行文献と違っている」という話を混ぜたくなるのですが、話を一体化できないのなら、あまり色々な主張を混ぜないほうがいいですよ、ということです。
要は、自分が短時間で説明しきれるだけの事項に絞ったほうがいい、ということです。私の場合は、「これ以上話す内容を増やすと、自分では説明しきれないな」という境界線を自分なりに決めていて、その境界線を越える話はしないことにしています。
案件によっては、どうしても複雑な話をしなければならない場合もあります。その場合でも、いかに話をぎりぎりまで削ぎ落して単純化するかを考えてください。
言いたいこと全部を詰め込んで、話を必要以上に複雑化したがる方もおられますが、それは逆効果だという気がします。
理解してもらうためには、話をどこまで単純化できるかということです。複雑な話をすると「頭のいい人が難しいことを言っている」と思ってくれる場合もあるかもしれませんが、それで「じゃあ特許査定にしましょう」ということにはなりません。
面接は「特許査定を得るためにできることをやる」ものであることをお忘れなく。
これは、必要なこと以外は言わない、ということでもあります。それが非常に難しいことなのですが。どのような形にせよ、主張からいかに贅肉を削ぎ落とすかは非常に重要であると思います。
特許庁面接(6)
に続きます。
特許庁面接(6)
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投稿者 八木国際特許事務所