特許コラム
2010年11月11日 木曜日
ノーベル賞と特許
2010年ノーベル化学賞の報道の際に、「特許を取得していなかった」ということが大きく報道されました。
そこで、歴代のノーベル賞受賞の方々の特許出願を調べていると、以下のような資料が特許庁ウェブサイトで公開されているのを見つけました。
日本人ノーベル賞受賞者(自然科学分野)の特許出願件数 | |||
受賞年 | 受賞者名 | 分野 | 特許出願数(日本) |
2002 | 田中 耕一 | 化学賞 | 17 |
小柴 昌俊 | 物理学賞 | 0 | |
2001 | 野依 良治 | 化学賞 | 167 |
2000 | 白川 英樹 | 化学賞 | 35 |
1987 | 利根川 進 | 医学・生理学賞 | 4 |
1981 | 福井 謙一 | 化学賞 | 191 |
1973 | 江崎 玲於奈 | 物理学賞 | 29 |
1965 | 朝永 振一郎 | 物理学賞 | 0 |
1949 | 湯川 秀樹 | 物理学賞 | 0 |
2007年8月までに出願公開又は登録された件数
(発明者として特許出願等に関わった件数):特許庁調べ
(発明者として特許出願等に関わった件数):特許庁調べ
こうして見ると、化学賞受賞の方の出願件数が圧倒的に多いという傾向ですね。物理の基礎研究は特許につながらないでしょうし、生理学も多くの特許出願を出すような分野ではないですし。
化学賞の先生方のなかで、触媒に関する技術で応用範囲が広い野依先生の出願件数が多いのは分かるとして、フロンティア軌道理論の福井先生の特許出願件数が多いのはどうしてなのでしょうか。理論系の先生というイメージがあって、特許につながりにくそうな気がするのに、最多なんですね。
今回の受賞者の鈴木先生、根岸先生が特許を取得されなかった事情はよく分かりませんが、こうして見ると、一般にはやはり大学の先生も特許出願されていることが分かります。
しかし、基礎研究を行っておられる方が特許を出願すべきなのかどうか、というのは難しい問題ですね。
先日、某大学の理学部の教授の方とお話したときに、
「国立大学における研究の成果は、広く一般に開放すべき技術だ」
というようなことをおっしゃっていて、特許を出願することは考えていない、ということでした。
その考えも一つの正しい考え方でしょう。
反面、「税金を研究費に充てているのだから、国家としての利益に資するようにすべき」という考えから「特許を所得すべき」という考え方もまた、正しい考え方です。
今回のノーベル賞で、この部分をどうすべきなのか、という議論が少しでも発生すればいいな、というのが私の気持ちです。
投稿者 八木国際特許事務所