特許コラム
2010年7月22日 木曜日
特許人が書く正しい掲示
前回、「論理病をなおす」という本を紹介させていただいた際に、
「『公園において樹木を折り取るべからず』との掲示に対し、『竹』は樹木でないから折り取っても構わぬと、解釈する人がありとしたならば、その解釈は立法者の意思に反した解釈である」
という一節を紹介させて戴きました。
そして、それとともに、「特許の世界の解釈であれば、『公園において樹木を折り取るべからず』と書いてあれば、竹は折り取ってもよい、と解釈する」という趣旨のことを書かせて戴きました。
では、特許人としてこの場合の正しい掲示とは、どんな文章なのでしょうか?
まず、誰でも考えるのは
「公園において樹木又は竹を折り取るべからず」
という言葉はどうか? ということですね。
しかし、
「じゃあ、ススキを折るのはいいんだな」とか「ササはいいんだな」とかいう屁理屈が生まれる余地があります。
じゃあ、いっそ
「公園において植物を折り取るべからず」
とすればいいんじゃないか。
これなら、植物全般になっているので、樹木以外も広く禁止できます。
しかし、
「じゃあ、折り取るんじゃなくて、根っこから引き抜いたり掘り返したりするのはいいんですね」
という解釈が成り立ちます。
それなら、
「1 公園において植物を折り取るべからず
2 公園において植物を引き抜いたり、掘り返したりするべからず」
とすることが考えられます。
しかし、そうすると、町内会の掃除のときに近所の人が雑草を抜いたりするのもいけないってことか? ということを言い出すわけです。
「1 公園において園芸用に植えられた植物を折り取るべからず。
2 公園において園芸用に植えられた植物を引き抜いたり、掘り返したりするべからず。」
段々と面倒くさくなってきました。
それに、「花が枯れた後に種ができていたら、それは勝手に取ってもいいんですか?」ということを言い出す人が出てきたりすると、それはどっちが正しいのか、町内会で議論しなければならなくなります。
そうすると・・・。
きりがないので、この辺でやめておきます。
結局、特許を書くというのは、こういう作業をしているような感じです。
そして、どこまで根を詰めて考えても、全く抜けのない完璧な「掲示」はできないのです。
しかし、だからといって、「公園において樹木又は竹を折り取るべからず」という一文でよし、とすることは絶対にできません。
面倒くさいと言ってしまうとそれまでになるのですが、そこを細かく詰めていくことが特許の仕事なのかな、と私は思っています。
投稿者 八木国際特許事務所