特許コラム
2010年7月 5日 月曜日
特許は必要悪??
私も、15年間、特許の仕事をしていくなかで、色々な方とお話をする機会があり、知財に関して色々な言葉を聞いてきました。
そのなかで一番印象に残っている言葉がこれです。
「結局、特許ってのは世の中にとって必要悪だから」
某社知財部の方の発言でした。
「必要悪」というのは、過激な言葉です。
しかし、ある意味、真実をついているのかもしれません。「必要悪」とまで言うと言いすぎかもしれないとも思うのですが。
私はとりあえず「研究開発を主体とする会社にとっての保険みたいなもの」と少し薄めて考えるようにしているのですが。
その方曰く、「だって、特許制度なんてものがなくても世の中がうまく回っていくのなら、特許制度なんてないほうがいいんだから。それじゃあうまくいかないから、ってことで特許制度がある、ってことでしょう」
というようなことでした(正確には覚えていません。結構昔のことなので)
確かに、世の中のすべての人が紳士的で、人が発明したことを安易に真似することはせず、パクリというものを誰もしないとしたら、特許制度なんていらないでしょう。
まあ、そこまで行ってしまうと、世の中の進歩は大幅に遅れ、活気のない世の中になるでしょうが。
それを指して「必要悪」とおっしゃられるのは非常に興味深い言葉に思いました。
とはいえ、世の中のすべての人間が清廉潔白だったことなんて、有史以来一度もないわけですから、「必要悪」とまで言ってしまうこともないような気がします。
それに、誰かが思いついたことを真似することで技術が進歩する面があるわけで、「真似」イコール「悪」とも言い切れないわけです。
で、私が思うのは「特許は保険みたいなもの」ということです。
特許を取らなくても商売はできます。
しかし、特許を取っていない状態で商売をしたとき、儲かりだした頃に真似する会社が出てくる、ということは非常に多いです。
真似されると、後発のほうが有利です。研究投資に金がかかっていませんから。そこでコスト競争に巻き込まれてしまうと、先発のほうが不利という状況になってしまいます。
それを避けるために、特許化を図るわけです。つまり、「他社」を攻めるための武器として特許はあるわけです。
そういう「将来、真似する人」を防ぐために、研究開発がまだまだ初期段階にある時点で特許出願をしないといけないわけです。
企業の研究開発の多くは、初めのうちは「海のものとも山のものともつかない」状態です。その時点で、特許出願しなければならないわけです。
その特許が本当に役に立つのか、将来、真似する人が現れるほど成功するかどうかも分からないうちから、特許対策は始まっているのです。
こう書くと、「保険」と書いた気持ちが少しは分かってもらえるでしょうか。
その将来どうなるか全く分からないものについて、対策を練っておく、という点で保険のような面がある、ということです。
そして、「保険」と同じことで、やらないわけに行かないですし、かといって保険にばかり時間や金をかけていても、実際のビジネスにエネルギーが回らなくなってしまいます。
そこのところを、どの程度配分していくか、それが経営者の「知財戦略」にかかってくる、と言えるのかもしれません。
投稿者 八木国際特許事務所