特許コラム
2010年6月 7日 月曜日
化学特許③
化学特許について、以前、
「製造方法が特徴になってしまいやすい」
ということを問題として書かせて戴きました。
今回は、これがどういうことかについて、少し書かせて戴きます。
化学の発明において、「できたもの」が何かが分からない場合は、案外多いです。
ベンゼンが化学構造上六角形をしているという話にしても、目で見たときに六角形をしている、ということではありません。みかけはただの透明な液体です。それが、過去の研究と理論の積み重ねから、あの六角形が導かれたわけです。
昔、あの六角形が明らかになっていなかった時代は、ベンゼンという化合物ができた、と言ったところで、それがどんな化合物か、化学構造式で表現することはできなかったわけです。
そして、今、分析技術は進み、化学についての知見も随分と蓄積されました。
だからといって、すべてのものについて厳密に化学構造式で表現できるわけではないですし、ましてや新しい技術であれば、化合物の構造を解析しているような余裕はない場合も多いです。
表現できなかったらどうするのかというと、
(1)製造方法で説明する。
(2)物性で説明する。
の2つが考えられます。
このうち、(2)が化学の分野でいつも問題になる「パラメータ特許」です。これは化学分野の特許の方はよくご存じの通りのものです。取り扱いが一筋縄でいかないものであり、私もあちこちでレクチャーをすると、「パラメータ特許について話をして下さい」という要望は非常に多いです。
それだけ扱いにくいもの、ということです。
これに対して、「(1)製造方法で説明する」という方法は比較的簡単です。自分が実験した方法を自分がやったとおりに説明すれば、それで説明できたことになるからです。
最終の構造がはっきりしなくても、「AとBとを混合して反応させてできた化合物」と書けば一応、説明したことになります。
このような製造方法の発明であれば権利化もしやすいですし、明細書も書きやすくなります。しかし、です。
製造方法の発明は他社の侵害の立証が非常に難しいものになります。他社の工場に入らずにどうやって製造しているか、製造方法を明らかにするのは至難の業です。
場合によっては、特許出願をせずに秘密にしておけば邪魔されずに済んだのに、特許出願したせいで真似されてしまった、という本末転倒に陥ることもあります。
一応お断りしますが、製造方法特許が一概に悪いわけではなくて、ものによっては製造方法の特許で目的を充分に達成できる場合もあります。それに、ライバル会社としては、製造方法特許であっても、ある種の「怖さ」を感じるので、そのまま真似をするのにはやはり抵抗があるものです。
しかし、深く考えずに製造方法でなければ特許にならないから製造方法で、という判断で済むほど簡単な話でないということは覚えておいて戴いてもよいのではないか、と思います。
投稿者 八木国際特許事務所